アレクサンドル・ラザレフ(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団

渾身のオーケストラ音楽がここにある

アレクサンドル・ラザレフ (C)山口 敦
アレクサンドル・ラザレフ (C)山口 敦

 ラザレフ&日本フィルの充実ぶりは、何度でも強調せずにおれない。2008年の首席指揮者就任以来のプロコフィエフ、ラフマニノフ、スクリャービン各シリーズを通して、日本フィルのホットな持ち味にスケール感と緻密さが加わり、今や“ライヴに足を運びたい”筆頭格にまで上昇した。それを象徴する例が今年3月のショスタコーヴィチの交響曲第7番「レニングラード」。壮絶な熱演と重層感のあるサウンドが、グレードアップを強烈に印象付けた。
 今秋始まる『ラザレフが刻むロシアの魂 SeasonⅢ』のテーマが、まさにそのショスタコーヴィチ。しかも選ばれた交響曲は、4番・11番・8番だ。ラザレフによれば「15曲の中でもっともボリュームのある、内容の濃い作品」で、「マーラーとの密な繋がり」を意識した選曲。この審美眼は実に興味深い。
 10月に演奏するのは第4番。作曲者が当局の弾圧を怖れて取り下げた問題作であり、マーラー色の濃い西欧モダン的音楽にして、複雑な構造と緊密な内容をもつ快作だ。「エネルギーが凝縮され、第5番以降、最後の交響曲第15番に至るまでの要素が全て盛り込まれた作品」と語るラザレフの、曲の本質を抉るアプローチへの期待は大きい。そして第7番同様の大規模作品ゆえに日本フィル渾身の名演を強く予感させる。
 前半がチャイコフスキーの弦楽セレナードというのも面白い。抒情的な19世紀ロマンとシリアスなショスタコとの対照も妙味だし、ラザレフならば既成概念を超えたセレナード演奏を聴かせてくれそうだ。
 あらゆる意味でエキサイティングな当公演、もちろん足を運ばずにはおれない。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年10月号から)

ラザレフが刻むロシアの魂 SeasonⅢ 第664回 東京定期演奏会
10/24(金)19:00、10/25(土)14:00 サントリーホール
問:日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 
http://www.japanphil.or.jp