パデレフスキ国際ピアノコンクール審査員
ラファウ・ブレハッチさんインタビュー

2022秋 高坂はる香の欧州ピアノコンクールめぐり旅日記 13

 今回、コンクールで初めて審査員を務めたラファウ・ブレハッチさん。コンクールの結果発表が行われた翌日、初めて審査員席に座った感想やファイナリストの印象、音楽家として今感じていることまで、たっぷり伺いました。

Rafał Blechacz ©︎Haruka Kosaka

—— 初めて審査員をやってみて、いかがでしたか?

 私が今回審査をしたのは、セミファイナル2日間とファイナル2日間の4日間だけでした。コンクールの途中から参加した形で、1次と2次の演奏のことがわからないだけに、一部のコンテスタントについての私の理解は少し十分でなかったかもしれないなと感じています。

—— とはいえ、リサイタルとモーツァルトの協奏曲、もう一つの協奏曲というのは、判断するには良い材料のようにも思いますが。

 そうですね。ただ、すべての演奏を聴いたわけではないということが、最終的な決断をするには少し難しかったということです。1次と2次ではとても良い演奏をして、次で突然何かが狂ってしまうコンテスタントもいますから。

—— 途中から聴いた印象でも、最終的な結果には納得されましたか?

 はい、とても納得のいくものでしたし、公平だと思いました。

—— 優勝したマテウシュ・クシジョフスキさんの印象は?

 とても良いピアニストであり、すばらしい音楽家だと思いました。優勝にふさわしい方です。特に、ファイナルのシマノフスキ「協奏交響曲(交響曲第4番)」には感動しました。フォルテの音が優れていて、それも明るすぎず、強すぎない音でこういう音を鳴らすことができるのはすばらしいことです。この作品は協奏曲というより交響曲で、ピアノはオーケストラの一部とならなくてはいけません。

マテウシュ・クシジョフスキ
©︎ International Paderewski Piano Competition

—— 普通コンクールでは、ソリストとして自分のテクニックが目立つ曲を選びがちです。そういう意味では珍しいですが、やはり良い選曲でしたよね。

 そうですね。ここまでのステージで、技術的な面、ヴィルトゥオジティは見せることができますから、ファイナルではこういう曲を選ぶことも可能だったのでしょう。結果的に、作品からポーランドのキャラクターを感じることができて、おもしろかったですね。

—— 優勝者以外で印象に残ったファイナリストはいましたか?

 ウクライナのピアニスト、ダニロ・サイエンコさんの演奏には、とても説得力があると感じました。私はああいったタイプのピアニスト、本質的で、平和的な雰囲気を生み出す演奏が好きです。彼の演奏スタイルは、私の大好きなアルトゥール・ベネディッティ・ミケランジェリのスタイルにとてもよく似ていると思いました。音楽と解釈の知的な部分と情緒的な部分のバランスがすばらしいです。

ダニロ・サイエンコ
©︎ International Paderewski Piano Competition

—— 日本人のファイナリスト、奥井紫麻さんの印象はいかがでしたか?

 セミファイナルでの彼女のリサイタルは、とてもよかったです。ただ、これは私自身の経験から言うことなのですが、ショパン・コンクール以外のコンクールでショパンのコンチェルトを選んで優勝するのは、とても難しいと思います。

—— それってなぜなのでしょう?

 とても難しくて、責任の求められる音楽だからだと思います。マルタ・アルゲリッチもショパンの協奏曲でコンクールに優勝するのは難しいと言っていましたし、師のポポヴァ=ズィドロン先生も、私が浜松で最高位になったけれど1位になれなかったときには、同じことを言っていました(笑)。

奥井紫麻
©︎ International Paderewski Piano Competition

—— ブレハッチさんが最後にコンテスタントとしてコンクールに参加してから17年が経ちました。審査員席に座って、当時の気持ちは思い出しましたか?

 いいえ、なんにも覚えてない! 記憶力がとっても悪いから(笑)……というのは冗談で、もちろんすごく覚えていますよ。あの時の感覚、感情は、一生忘れないと思います。自分の人生にとってとても重要な日々、そして瞬間でした。
 2005年にショパンコンクールに優勝した後、クリスチャン・ツィメルマンが手紙をくれて、そこには「あなたの人生には全く別の二つのパートがあるだろう、コンクール前と、コンクール後だ」ということが書いてありましたが、それは真実でした。なるほど、こういうことかと後で思いました。私の人生は変わりました。