後期ロマン派の魅力を存分に
毎年秋、東京は世界で最も熱い音楽都市となる。名だたるオーケストラが続々と上陸し、各地で夜ごと名演が繰り広げられる。2つ3つの公演が同じ日に重なって、どれにしようか悩ましい思いに駆られることも少なくない。星の数ほどあるコンサートの中から「これは」というものを見つけ出すのも一苦労だ。
限られた時間と予算で、聴いておきたい旬のオーケストラを間違いなくチョイスしたいーーそんな希望を持っている人にお薦めなのが NHK音楽祭だ。国外の選りすぐりのトップ・オーケストラとNHK交響楽団が、毎年一つのテーマに沿ったプログラミングで聴かせてくれる。
今年は「管弦楽の黄金時代 後期ロマン派の壮大な調べ」というテーマで、10月に3公演がラインナップされている。トップバッターを務めるのはわれらがNHK交響楽団だ(10/2)。指揮のマルティン・ジークハルトは、ウィーン交響楽団でチェロを弾いていたが、指揮に転向してから頭角を現し、オーストリアを中心にヨーロッパ各地で活躍している。この日はお国の作曲家ブルックナーの交響曲第4番「ロマンティック」(ノヴァーク版)を披露してくれる。前半のモーツァルト「ピアノ協奏曲第21番」を弾くユリアンナ・アヴデーエワは2010年のショパンコンクール覇者。こちらも楽しみだ。
10月17日はワレリー・ゲルギエフ率いるマリインスキー劇場管弦楽団。パワフルなサウンドで来日の度に深い感銘を与えている彼らが今回披露するのは、今年生誕150年を迎えるリヒャルト・シュトラウスの楽劇《サロメ》(演奏会形式・字幕付)だ。歌唱陣もこのサンクトペテルブルクの老舗劇場とゆかりの深い強力なメンバーが揃った。タイトルロールを歌うムラーダ・フドレイは、この役で同劇場にデビューしている。重量打線による豪快な競演が聴けそうだ。
10月29日の公演はズービン・メータが指揮するイスラエル・フィルハーモニー管弦楽団だ。何とメータとイスラエル・フィルはどちらも同じ1936年に誕生している。メータは若くして同団の指揮台に上り、今年は初共演から50年という記念の年でもあるという。曲目は、まずシューベルトの交響曲第6番。ベートーヴェンのスタイルを模した堂々とした楽曲だ。続いてマーラー交響曲第5番。大オーケストラの機能をフルに生かしたダイナミックな演奏効果が楽しめる。伝統的に受け継がれてきた同団の、しなやかな弦の香りも堪能したい。
各回の冒頭には音楽評論家・奥田佳道氏が聴きどころをナビゲートするプレトークが用意されている。クラシック初心者にも至れり尽くせりだ。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年7月号から)
マルティン・ジークハルト(指揮) NHK交響楽団
10/2(木)19:00
ワレリー・ゲルギエフ(指揮) マリインスキー劇場管弦楽団
10/17(金)19:00
ズービン・メータ(指揮) イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団
10/29(水)19:00
NHKホール
問:ハローダイヤル03-5777-8600/NHKプロモーション03-3468-7736
http://www.nhk-p.co.jp/concert