古川展生(チェロ/スーパーチェリスツ)

実力派チェリスト10名の個性際立つ響き

(c)アールアンフィニ

 チェロという楽器は、奏者がみんな仲のいいことで知られる。ベルリン・フィルの「12人のチェリストたち」はチェロのアンサンブルとして世界的に有名だが、日本でも「スーパーチェリスツ」と題する精鋭ユニットが存在する。

 これは東京都交響楽団の首席チェロ奏者、「KOBUDO ー古武道ー」「ストリング・クヮルテットARCO」のメンバーとして多彩な活動を展開している古川展生が率いるMAX10人のチェリストで構成されている。古川によれば、2018年にヴァイオリニストの高嶋ちさ子の呼びかけにより結成され、次第にチェロアンサンブルとして活動を深めたという。

 「メンバーは年齢的に幅広く、それぞれ多忙なため、コンサートではフレキシブルな人数構成となっています。チェリストは本当に仲がよく、リハーサルから意気投合。今回の録音もみんながソロを担当できるよう配慮しました。なんといっても、メンバーの一人で、編曲を担当してくれた小林幸太郎の才能と力量に感謝しています」

 CDはピアソラの「リベルタンゴ」で幕開けし、バッハの「G線上のアリア」、アンダーソンの「舞踏会の美女」、ビゼーの「カルメン幻想曲」(W.トーマス=ミフネ編)、古川作曲の「エレジー」など多種多様な曲が次々と現れ、カザルスの「鳥の歌」(カタルーニャ民謡)で終幕を迎える趣向だ。

 「『カルメン』や『舞踏会の美女』は録音中に何度も変更を加え、音域の調整やベースラインを軽くしたり、パートの人数を変えたりするなどバランスを考慮し、最大限工夫を凝らしました。私は井上頼豊先生からカザルスの偉大さと、バッハの作品のすばらしさを教え込まれていますので、『鳥の歌』と『G線上のアリア』を収録することができて感無量です。カザルスの故郷、スペインのヴェンドレルでも演奏しましたが、それを思い出しますね」

 このアルバムは全編に自由闊達、のびやかかつ情感豊かな響きが詰まっている。同じチェロでもソロを取る人の音によって微妙な演奏の違いが生まれ、リズムも表現も変容する。

 「私はアンダーソンの曲が好きで、『舞踏会の美女』はぜひ入れたかったのです。『エレジー』は新しい編曲で、2020年に母が急逝したため、この曲は母への思いが詰まっています。コロナ禍で人々が疲弊しているなか、この曲が少しでもみなさんの心の救いになれば幸いです」

 チェロは人間の声にもっとも近いと称される。10人のチェリストたちのひたむきでまっすぐに歩みを進めるその真摯な姿勢、音楽に魂を捧げるヒューマンな響きを堪能したい。
取材・文:伊熊よし子
(ぶらあぼ2022年11月号より)

CD『ザ・スーパーチェリスツ』
アールアンフィニ
MECO-1074
¥3300(税込)