勅使川原三郎・愛知県芸術劇場芸術監督プロデュース『風の又三郎』『天上の庭』が9月上演

 開館30周年の愛知県芸術劇場は、勅使川原三郎プロデュース公演として、9月に『風の又三郎』と、ライヴミュージック&ダンス『天上の庭』を上演する。これに先立ち本公演についてオンライン会見が行われ、7月にヴェネツィア・ビエンナーレ2022にて金獅子功労賞を受賞した勅使川原三郎と、佐東利穂子が出席した。

オンライン会見より勅使川原三郎(左)と佐東利穂子

 『風の又三郎』は宮沢賢治の同名小説を原作とし、勅使川原が演出・振付・美術・衣装・照明デザイン・音楽編集を担当。同劇場の芸術監督に就任後、愛知県におけるダンスのさらなる活性化を目指し、オーディションで選ばれた地元バレエ・ダンサー11名と、アーティスティック・コラボレーターの佐東が出演し、2021年に初演された。今回は、新規ダンサーを迎えての再演となる。
 勅使川原は「より成長して、より多くの方に観ていただきたい」と意気込む。

2021年7月の初演より (C)Naoshi Hatori

「初演の成果がとても素晴らしく、他の都市や海外でも披露できる作品になりましたが、コロナ禍の上演でしたので再演は当初より考えていました。
 『風の又三郎』は、谷あいの村にある学校で、夏休みのおわりから新学期の始まる数日間を描いた作品。佐東による朗読が重要で、ダンサーは原作のキャラクターに合った人選です。このプロジェクトは『ファミリー・プログラム』と位置づけていますが、子どもに焦点を合わせすぎないことが大事。ダンスは抽象的で難しいか、あるいは子どもにもわかりやすい内容と、類型的に分かれすぎているところがありますが、技術はより高いものが必要です」

 本作で朗読も担当する佐東は「ダンスは踊って初めて作品として成長していくもので、再演には大きな意味があります。『風の又三郎』は子どもの話でありますが、ずっと私たちが持っている気持ちが書かれている。
 音や描写、意味を考えるというよりは、文章が持つ独特なリズムや息づかいを大切にしています。宮沢賢治の作品には、鮮やかな色を感じさせる文体や、音に対する言葉も多いので、声に出すことで教わることが多く、それは踊りにも影響します。読む、そして踊るという身体感覚が両方あわさり、初めて作品として成り立っている」と語る。

2021年7月の初演より(C)Naoshi Hatori

 一方、新作『天上の庭』(演出・照明・衣装・選曲:勅使川原三郎)は、同劇場のコンサートホールで、世界トップクラスのダンスと音楽を同時に楽しむライブパフォーマンスとして、2016年から始まったシリーズ「ダンス・コンサート」の一環で上演。勅使川原曰く「『風の又三郎』とは異なり文学的メッセージはなく、純粋音楽と身体によるダンス作品」という。

 公演には、勅使川原、佐東のダンサー2人に、フィンランド系オランダ人のチェリスト、ヨナタン・ローゼマンが出演する。ヨナタン・ローゼマンはマリインスキー歌劇場管やフランクフルト放送響など数々のオーケストラと共演、すでに何度か来日しており、自身のリサイタルのほか、三浦文彰(ヴァイオリン)とのデュオ公演、サントリーARKクラシックに出演するなど、期待の若手チェリストだ。

ヨナタン・ローゼマン photo by Tuomas Tenkane

 勅使川原は作品について、「天上という言葉には、浮世を離れた世界という想いを込めました。音楽とダンスが出会う場所、庭で遊ぶ、戯れるような、遊戯性を持った作品になると思います。音楽がもともと持っている喜び、奏でられるべき調和がとても大事で、私と佐東、ローゼマン、三人三様のあり方や強い音楽性がどう調和するのか。チェロと2つの身体のハーモニーで、“見える音楽、聴こえる踊り”」と説明した。

 勅使川原と佐東は先日まで滞在していたヴェネツィアでローゼマンとリハーサルを行ってきたという。「人間性が表れるような穏やかで、音楽に対する真剣さ、目指すべき音楽性が非常に高い域に達している」と評価する。使用楽曲は「天と地を結ぶ音楽」を選んだとし、「まさに天上の音楽のような」J.S.バッハの無伴奏チェロ組曲より、「遊び、のびのびした」スペインの作曲家カサドの無伴奏チェロ組曲より、「浮き立つようなエネルギーを持った」コダーイの無伴奏チェロ・ソナタ op.8が演奏される。

 会見では佐東宛に届いたローゼマンのメッセージも紹介された。
「二人の素晴らしいアーティストとは、最初の出会いから多くのインスピレーションを得ています。勅使川原さんの芸術に対する考えはとても啓示的で、私自身の考えも活気づき、ユニークで特別なものを創りたいという気持ちが日々増すばかりです。
 演奏する曲目は、チェリストとしての人生のなかで近しいものとして存在します。日本の観客の皆さんとシェアできることを嬉しく思います」

 「共演という形で演奏家と同じ舞台でものを創る際は、唯一無二、他に類のない、そこで初めて起こることを創ることが第一の目的です。これはいま生きていることの証しでもあります」と語った勅使川原。9月公演では地元ダンサーと若きチェリストとの化学反応に期待が高まる。

勅使川原三郎と佐東利穂子 photo by Bengt Wanselius

【Information】
●ダンス『風の又三郎』
9/3(土)、9月4日(日)各日15:00

愛知県芸術劇場 大ホール
原作:宮沢賢治

演出・振付/美術/衣装/照明デザイン/音楽編集:勅使川原三郎
アーティスティック・コラボレーター/ダンス/朗読:佐東利穂子

ダンス:オーディションダンサー(赤木萌絵、石川愛子、伊藤心結、岩怜那、菰田いづみ、佐藤静佳、西川花帆、松川果歩、宮本咲里、吉田美生、渡邉菫)

●勅使川原三郎 ライヴミュージック&ダンス『天上の庭』
9/16(金)19:00、9/17(土)16:00

愛知県芸術劇場 コンサートホール

演出・照明・衣装・選曲・ダンス:勅使川原三郎
アーティスティックコラボレーター・ダンス:佐東利穂子
チェロ:ヨナタン・ローゼマン

問 :愛知県芸術劇場052-211-7552
https://www-stage.aac.pref.aichi.jp