INTERVIEW 牧野順也(Mishima Contemporary Music Days 音楽監督/ヴァイオリン)

三島を拠点に開催される現代音楽祭が今年は東京・神戸にも進出!

取材・文:伊藤制子

 荘厳な三嶋大社や富士山の絶景をのぞむ三島スカイウォーク、そして老舗の鰻店。東京から関西への中継点に位置し、見どころの多い静岡県三島市。この地を中心に、2019年から開催されているのが、三島現代音楽祭「Mishima Contemporary Music Days」だ。音楽監督を務めるのは三島市出身で、同地とスイスを拠点にするヴァイオリン奏者の牧野順也。東京音楽大学卒業後、オーストリアに留学し、当地で現代音楽の魅力に開眼するなか、ウクライナで音楽祭を開催することになった。それが三島での現代音楽祭へとつながったという。今年はコンサートプロジェクト「Meet Contemporary Music Days 2022」として、10月から11月に4回シリーズとして開催される。

牧野順也

「ドイツで現代音楽を専門とするInternationale Ensemble Modern Akademie(フランクフルト)に所属していた2015年12月、ウクライナ出身のピアニストと現代音楽の演奏会を、首都キーウで開催することになりました。それをきっかけに、私たちの想いに賛同した団体・演奏家が集まり、音楽祭『Kyiv Contemporary Music Days』が誕生したのです。当地はまだ国が建国され間もないということもあり、非常にオープンマインドな方が多いという印象です。そして芸術が好きな方が多く、新しい音楽を求める聴衆の希望で、ウクライナでのKyiv Contemporary Music Daysは現代音楽のみで構成しました。若い人も演奏会には結構来てくれて、感想なども教えてくれました。現在の悲惨な状況が、一刻も早く改善されることを願っています。
 芸術監督としてこの音楽祭に携わっていく中で、『このような新しい音の世界を体験できる音楽祭を、故郷の三島で開催したい。世界の第一線で活躍している音楽家たちの演奏、そして現代音楽の魅力を三島、伊豆の方々に聴いていただきたい!』という強い気持ちが、芽生えました。そして2019年、第1回三島現代音楽祭『Mishima Contemporary Music Days』を開催することができました」

—2019年の第1回、2021年の第2回の反響はいかがでしたか。

 第1回は9日間12公演を催し、ウクライナ、ドイツほか、海外の演奏家も参加してなじみのある親しみやすい音楽に現代音楽を織り混ぜることを基軸にし、好評を得ました。第2回はコロナ禍での開催になり、「今、この時だからできること。演奏を通して何ができるのか」「音楽の力で三島にエネルギーを届けたい」といったテーマで、3日間4公演を行い、音楽鑑賞レクチャー会も各公演中に設けました。

第1回の様子
第1回の様子

——今年のプロジェクトの各4回は、バッハ、バルトーク、プロコフィエフ、名奏者アドルフ・ブッシュ、サーリアホの官能性もある小品や、複雑性を標榜するファーニホウ作品、伊桑尹(イサン・ユン)の深淵な「大王の主題」などテーマに沿った多彩なラインナップですが、各公演の聴きどころや選曲のねらいを教えてください。

 今回は「Meet Contemporary Music Days」という理念のもと、現代音楽を中心とした演目の私のヴァイオリン・ソロ3公演、ヴァイオリンとピアノ(大瀧拓哉)とのデュオ公演1回、そして各回で「音楽鑑賞ミニレクチャー」を行います。開催地は、本拠である三島のほか、多くの音楽ファンが集う東京、古くから多様な文化が入り混じる神戸です。
 10月22日の東京のMUSICASAでのリサイタル公演「うたをうたう」は、音楽の根源である「歌」にスポットを当てており、様々な響きの中で浮かび上がる“歌”を体感してもらいたいです。特に聴いていただきたい作品は、池辺晋一郎さんと林光さんの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ、ドイツの新鋭スヴェン゠インゴ・コッホの5つの小品から成る新曲(日本初演)です。その世界はコッホの師であるファーニホウの作品「見えない色彩」に共通しているものがあると感じています。
 みしまプラザホテル チャペル ソルミエでの11月12日のリサイタル「創り、奏る -roots」では、プロコフィエフ、バッハなど演奏家でもあった作曲家たちの作品を取り上げます。名ヴァイオリニスト、アドルフ・ブッシュの無伴奏ヴァイオリン・ソナタはこの公演の注目曲です。
 11月18日の日比谷のベヒシュタイン・セントラム東京でのデュオコンサートは、ベンジャミンのソナタ、カーターのデュオを軸に選曲しました。どちらも非常に魅力的ですが、取り上げられる機会が少ない秀作です。スロヴェニアの作曲家ニーナ・ゼンクのリリシズムを湛えた「Quasso」(日本初演)、そして稲森安太己さんの「モトゥス・インテルヴァロルム」を弾くのも楽しみです。稲森さんは共演の大瀧拓哉さんが「素晴らしい」とすすめてくださった作曲家です。
 11月26日の神戸芸術センター公演「meet 伊桑 尹(イサン・ユン)」は波乱万丈の人生を送り、日本にも影響をもたらした伊桑尹にフォーカスを当てます。バッハの主題にもとづく「大王のテーマ」、「庭園のリナ」などの彼の作品と細川俊夫らゆかりの作曲家の作品が並びます。韓国に所縁の深いギタリスト、矢野孝俊氏によるトークも予定しています。

—今後、この音楽祭をどのように発展させていきたいですか。

 今後は、三島現代音楽祭ならではのプログラムを築いていけたらと思っています。「三島や静岡の民謡と世界の民謡」をテーマとしたものや、三島市内や近郊にて、名所に沿った新作を世界中の作曲家に委嘱したりするコンサートなどを考えています。最終的には、曲目は原則として初演の「現代の音楽作品」で構成され、独自性がある音楽祭となっていけたらいいですね。

 三島を起点に世界の音楽家、そして地域を結び付けていくという視点は、スイスを拠点に海外での活動も豊富な牧野ならではだ。独自性を高めようとする三島現代音楽祭の未来を今後も見守りたい。

Mishima Contemporary Music Days 2022 プログラム
【公演01】ヴァイオリン・リサイタル『うたをうたう』
2022.10/22(土)19:00 MUSICASA(ムジカーザ)

ファーニホウ:見えない色彩
コッホ:5つの小品(日本初演)
林 光:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 他

【公演02】ヴァイオリン・リサイタル『創り、奏る 〜roots』
2022.11/12(土)19:00 静岡/みしまプラザホテル チャペル ソルミエ

牧野順也:独奏ヴァイオリンのための新作(日本初演)
ハインツ・ホリガー:肖像
バルトーク:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ Sz. 117, BB 124 他

【公演03】ピアノ ヴァイオリン デュオコンサート『共に、奏る 〜Ein Dialog』
2022.11/18(金)19:00 ベヒシュタイン・セントラム東京

ゼンク:Quasso(日本初演)
エリオット・カーター:デュオ
稲森安太己:モトゥス・インテルヴァロルム 他

【公演04】ヴァイオリン・リサイタル『meet 伊桑 尹(イサン・ユン)』
2022.11/26(土)19:00 神戸芸術センター プロコフィエフホール
湯浅譲二:マイ・ブルー・スカイ第3番
細川俊夫:ウィンター・バード  
伊桑 尹:コントラスト 他

問:Mishima Contemporary Music Days 実行委員会 official.mcmd@gmail.com
https://mcmd-mi.com


Kyiv Contemporary Music Days
https://www.kcmd.eu/home