第40回 名古屋クラシックフェスティバル

豪華アーティストたちが集う伝統の音楽祭が完全復活!

 秋になると世界中の才能が怒涛のごとく来日、主なものを押さえるだけでも一苦労 ──そんなコロナ前の賑わいと華やぎがようやく帰ってきそうだ。40回という節目を迎える名古屋クラシックフェスティバルに、オペラからオーケストラまで、老舗の名門から今が旬なアーティストまで、これさえ押さえておけば間違いないという豪華ラインナップが復活する。

 幕開けはハンガリー国立歌劇場のモーツァルト《魔笛》で(10/29)。同劇場はオーストリア・ハンガリー二重帝国時代に、ウィーン国立歌劇場と並ぶブダペストの拠点として1884年にオープンした名門。今回はパミーナにブダペスト出身の世界的ディーヴァ、アンドレア・ロストが出演するのも見どころだ。指揮は半世紀近くにわたって同劇場を率いているヤーノシュ・コヴァーチ。

 11月2日と3日はチェロ界の重鎮ミッシャ・マイスキーが、バッハの無伴奏チェロ組曲の全曲演奏を披露する。鍵盤の平均律クラヴィーア曲集、無伴奏ヴァイオリンのソナタとパルティータと並び、チェロの聖典とも言うべき本作を、70代半ばとなったマイスキーが、長いキャリアの上に到達した至高の境地で紡ぎだす。

 11月6日にはソプラノのナタリー・デセイの妙技を、数々のユニークなステージを生んできた相棒フィリップ・カサールの伴奏で。およそ10年前にオペラの舞台からは引退したデセイだが、様々な声色を使い分け歌曲やアリアの魅力をニュアンス豊かに開拓している。今回もフランスものを中心に、美声を存分に楽しみたい。

 11月18日には独ハノーファーを拠点に活動するNDR北ドイツ放送フィルが来日。かつて大植英次が首席指揮者を務めていたと言えば、ああとうなずく方も多いだろう。今回の公演は2014年より同ポストを務めるアンドリュー・マンゼが率いる。マンゼといえばバロック・ヴァイオリンにルーツを持つアーティスト。巨匠ゲルハルト・オピッツを迎えたピアノ協奏曲とともに、オール・ベートーヴェン・プロをどんな風に味付けしてくるのか。

 かつてはミュンヒンガーのリードでバロックや古典派に名盤の山を築いたシュトゥットガルト室内管は、現在もその精神を受け継ぎながらレパートリーを拡張、進化し続けている。11月26日には、ヴィヴァルディ「四季」とチャイコフスキー「弦楽セレナーデ」という、得意曲を携えての登場だ。この規模ならではの息の合ったアンサンブルを堪能したい。

 年が明け1月9日には、戦禍のウクライナから同国を代表するキエフ・オペラが《カルメン》を披露する。2006年に最初の引っ越し公演を敢行してから頻繁に来日、オペラの主要レパートリーで歌の充実ぶりを見せつけてきた歌劇場だ。今回は苦難を背負っての公演となるが、平和への祈りを込めつつ観劇したい。

 フェスティバルの掉尾を飾るのは、ベルリン・フィルのコンサートマスター樫本大進と、ピアノ界の鬼才エリック・ル・サージュのデュオ(2023.1/28)。世界に冠たるオケを率いる樫本、その器は一回りも二回りも大きくなっている。ル・サージュはレ・ヴァン・フランセをはじめ、室内楽分野でもトップ奏者たちとの経験が豊富だ。ブラームスとシューマンのヴァイオリン・ソナタで充実ぶりを見せてくれるだろう。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2022年8月号より)

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