千田桂大(秋田・潟上国際音楽祭 アーティスティックディレクター、ピアノ)

秋田から世界へ、新たな音楽祭が始動

 7月、新たな音楽祭が産声をあげる。秋田市と、その北に接する潟上市で開催される「秋田・潟上国際音楽祭」。アーティスティックディレクターを務めるのは、潟上市出身のピアニスト千田桂大だ。現代の巨匠エリック・ハイドシェックの愛弟子で、拠点としているヨーロッパでの評価も高い。

 「コロナ禍で図らずも長く滞在した故郷で、人々の中に、自分たちの文化がないと感じました。住民一人ひとりが文化を持って初めて、主体的に社会に参画する人間が育成されていくのではないか。音楽祭と名乗ってはいますが、音楽を手段として、たとえば秋田独自の文化とのコラボレーションに進むことで、日本の新しい文化の形を創造するモデルケースとして、ダイレクトに世界に発信していきたいと思います」

 と、未来を見据える。

 「アーティストと地域との交流や、子どもたちのためのワークショップの開催などを通して、新しいアクティビティが生まれると思います」

 初年度は7月と10〜11月の2期に分けて4公演ずつの開催。開幕の夏公演は、“オール秋田”色が強い。高橋絵理(ソプラノ)、斎藤忠生、中鉢聡(以上テノール)、小松英典(バリトン)ら、県出身の歌手たちが出演する「浅草オペラショウ」や「秋田ガラ・コンサート」。大正時代に大衆オペラが賑わいを見せた浅草は、秋田(久保田)藩の上屋敷があったゆかりの地だ。「秋田とのつながりが、コンサートに親しむきっかけになれば」と言う。

 千田はヴァイオリンの﨑谷直人やチェロの富岡廉太郎らとともに、ソロと五重奏を弾く。

 「桐朋学園大学時代からの大親友。二人は、“秋田にプロ・オーケストラを作る会”の会長を自称してくれています」

 ゆくゆくはこれをオケに発展させたいと夢は膨らむ。そして秋公演には、アンリ・バルダ、フィリップ・カサール(以上ピアノ)ほか海外勢が続々出演。

 師のハイドシェックの最初のレッスンは、ピアノに触れずにシェイクスピアのレクチャーだったそう。「ピアノは表現の手段に過ぎない」と、文学、美術、哲学、映画など芸術・文化全般を徹底的に教え込まれた。「一人ひとりの文化の発信」にこだわる原点がそこにある。

 とはいえ、むろんエンタテインメントとしての魅力で音楽祭を成功に導き、地域に定着させる大切さも承知している。近い将来、名前を聞いたらびっくりするような大物ハリウッド俳優を招聘するプランも明かしてくれた。

 千田自身も、これが日本での本格的な活動をスタートさせる契機となる。30代の若いディレクターが率いる音楽祭がどんな成果を生んでいくのか。大いに注目だ。
取材・文:宮本明
(ぶらあぼ2022年7月号より)

第1回 秋田・潟上国際音楽祭2022
夏公演
2022.7/8(金)〜7/10(日) 
秋公演
2022.10/25(火)〜11/15(火)
7/8(金)19:00 朴葵姫ギターリサイタル
7/9(土)13:00 浅草オペラショウ ショウほど素敵なものはない♪
7/9(土)17:30 秋田ガラ・コンサート 山田武彦と東京室内歌劇場・ゲスト歌手たち
7/10(日)14:00 千田桂大ピアノリサイタル ソロ&クインテット マチネ
秋田アトリオン 音楽ホール
問:コンサートイマジン03-3235-3777/アートオフィスサイチ018-874-9215
https://www.akimf.com
※秋公演など音楽祭の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。