大友肇(チェロ)

バッハ、カサド、黛の無伴奏全8作品を一日で

 クァルテット・エクセルシオを盤石の演奏で支えるチェリスト大友肇。現在は東京シティ・フィル客員首席奏者なども務めるチェロの匠が、6月20日に無伴奏のリサイタル、しかも1日2公演でJ.S.バッハの組曲全6曲にカサドと黛敏郎という、“ソリスト大友”を前面に出した意欲的なソロ公演に臨む。最新アルバムでのバッハ(2・6番)は温かくのびやかな音で綴られた美演で、4年にわたった全曲録音も完結した。

 「録音開始までの20年以上はクァルテット活動が中心で、自分の音楽を考えることやバッハと向き合うことがあまりできていなかったのですが、やはりバッハをやらねばと毎日少しずつ、たとえ10分であっても練習を重ねました。最初は6番まで弾くことは想像もできないほど大きな山でしたが、登りきれて本当によかったです」

 当公演「無伴奏の世界」の主催者は、10年以上前に大友の弾くバッハを偶然耳にして感銘を受けて以来、無伴奏公演を企画するなら初回は必ず大友で、と考え続けていたという。そこに全曲録音達成も重なり、当初は夜公演だけの予定が、急遽昼の同会場も確保して別枠のリサイタルとして1〜4番、夜に5・6番と全曲を弾くことに。

 「夜のプログラム(バッハ5・6番+カサド+黛)は先に決まっていました。そこに昼も追加してバッハ全曲をとのご提案が来て、さすがに少し考えさせてくださいと(笑)。そこで全曲を1日で弾いてみたのですが、幸いできそうだという手応えを得られました。これほど運命的な機会もないですし、なにより“できます!”と返事ができるのが本当に嬉しくて。公演では1曲1曲を“親しい友人たち”みたいに感じながら弾いてみたい。やはり6番は特別に大きい存在で、そこまで辿りついてやっぱりすごいと思えるような流れにしたい」

 今回はカサドの組曲と黛「BUNRAKU」という、スペインと日本の匂いにあふれる熱い楽曲が組み合わされるのも目を引く。

 「どちらも割とオーソドックスな曲と考えていて、しっかり取り組みたい。黛は文楽という日本文化を素材に、世界で通用する言葉にしたような作品。海外でもかなり弾かれていますが、改めて日本人として世界に発信するという意識をもって弾きたいです」

 大友の語り口はじっくりとして丁寧、でも家族の話題には思わず盛り上がったり、とにかく自然体で力みがない。演奏のイメージ通りの人柄だし、その真摯さが様々な巡り合わせを引き寄せたのだろう。世界水準と言うべき彼のバッハが、東京文化会館の聴衆を湧かせる日が楽しみでならない。
取材・文:林昌英
(ぶらあぼ2022年6月号より)

J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲 CD全曲完結記念 大友 肇 無伴奏チェロリサイタル
2022.6/20(月)15:00
第1回 無伴奏の世界 
6/20(月)19:00
東京文化会館(小)
問:ミリオンコンサート協会03-3501-5638 
http://www.millionconcert.co.jp