四半世紀にわたる歴史のラストを飾る生命力あふれる人間讃歌
カール・オルフが1936年に作曲した「カルミナ・ブラーナ」は、中世の詩歌集に想を得た世俗カンタータで、吟遊詩人や修道僧が酒色にふける姿などを劇的に描く。演奏会形式での上演が多いが、オルフは舞踊が入る舞台上演を前提に創っており、国内外の著名振付家が挑んでいる。そうしたなか、世界的に見ても画期的成果をあげ再演を重ねているのが、佐多達枝の演出・振付によるO.F.C.の合唱舞踊劇「カルミナ・ブラーナ」(1995年初演)だ。このたび2018年以来4年ぶり待望の上演にしてO.F.C.最終公演となる。
O.F.C.(代表・柴大元)は1995年設立。芸術監督に創作バレエの巨匠である佐多達枝を迎え、歌と踊りと演奏を融合した合唱舞踊劇を世に問う。ベートーヴェンの「交響曲第9番」やバッハの「ヨハネ受難曲」にも挑んだが、極め付きは旗揚げ作品の「カルミナ・ブラーナ」である。オルフの意図を踏まえた舞台上演を企てたことからすべてが始まったのだ。
佐多は1950年代から振付作品を発表し、鋭敏なステップと独特な音楽性を持ち味として数々の名作を生んできた。壮大な人間讃歌である合唱舞踊劇「カルミナ・ブラーナ」では、歌詞と場面を細かく対照させるよりも「言葉の中身を感じて、それをより抽象化」したと語っている。特筆すべきは合唱隊も舞台上に上げたこと。彼らがダンサーたちの前後左右で歌いながら躍動し、音楽と舞踊が力強く響き合うステージは圧倒的だ。
指揮はO.F.C.桂冠指揮者の齊藤栄一。管弦楽は東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団。独唱はオペラに加え宗教曲でも力を発揮する中江早希(ソプラノ)、古楽から現代音楽まで幅広く活躍中の金沢青児(テノール)、近年オペラの大舞台で躍進目覚ましい加耒徹(バリトン)と粒ぞろいなので大いに期待が高まる。
ダンサーは総勢21名。新国立劇場バレエ団のプリマバレリーナを経て古典から現代作品まで多彩に踊りこなす酒井はな、伸びやかな踊りが爽快な浅田良和、鬼才ウィリアム・フォーサイスの下で研鑽を積み帰国後はユニークな創作活動を展開する島地保武、谷桃子バレエ団のプリンシパルで陰影深い表現力に定評のある三木雄馬ら多士済々である。
今回はO.F.C.のファイナル公演であるだけでなく、卒寿を迎えた佐多の最後の公演だという。なお動画配信も決定した。O.F.C.と佐多の総決算となる歴史的舞台を見逃す手はあるまい。
文:高橋森彦
(ぶらあぼ2022年5月号より)
2022.5/14(土)16:00 東京文化会館【配信あり】
問:O.F.C.事務局03-3367-2451
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