東京二期会《エドガール》 バッティストーニ指揮で上演

 Bunkamura オーチャードホールの舞台、セミ・ステージ形式の簡潔で明快な演技で、歌唱とオーケストラの音をたっぷり味わえる、東京二期会コンチェルタンテ・シリーズ。今回取り上げるのはプッチーニ2作目のオペラ《エドガール》。上演機会は稀少だが、すでにこの作曲家ならではの甘美なメロディと華麗な響きに満たされていて、オペラ好きであればこの機会は逃すわけにはいかない。本公演は4月23日、24日の2回。23日キャストの最終総稽古(ゲネラルプローベ)を取材した。
(2022.4/21 Bunkamura オーチャードホール 取材・文:林昌英 写真:寺司正彦)

左:福井 敬(エドガール) 右:髙橋絵理(フィデーリア)
右:中島郁子(ティグラーナ)

 《エドガール》のストーリーについては、東京二期会のウェブサイトがイラスト付きでわかりやすく、そちらをご参照のこと(http://www.nikikai.net/enjoy/vol328_03.html)。
 愛憎渦巻き、ときに身勝手でもある人間の業がダイレクトに表現されたストーリーだが、プッチーニがあてた音楽が本当にすばらしい。1889年の4幕版の初演が不評で、1892年に3幕に変更。さらに、《ラ・ボエーム》《トスカ》《蝶々夫人》を書いた後の1905年に現在の版を完成。いわば若者の意欲的な音楽と大家の成熟した書法が融合を見せているのである。
 例えば冒頭、のどかなムードで進行した後、ティグラーナ登場で一気にスペクタクルな音楽が展開する場面は、“これぞプッチーニ!”と圧倒される。全体的にはプッチーニの作品の名場面のエコーや、ワーグナーなどの影響も随所に感じられて興味深い。脚本の掘り下げの弱さは隠せないものの、音楽の魅力がそれを補って余りある。

左より:中島郁子(ティグラーナ)福井 敬(エドガール)清水勇磨(フランク)、北川辰彦(グァルティエーロ)、髙橋絵理(フィデーリア)
右:清水勇磨(フランク)

 舞台はオーケストラの手前に簡易ステージ。奥には紗幕があり、さらにその奥に合唱団が分かれて並ぶ。紗幕には適切な映像が映されてストーリー進行を助ける。

 歌手陣は共感豊かな歌唱と演技をみせて、なかでも熱き青年エドガールを演じる福井敬の千両役者ぶりは、やはり圧巻というほかない。張りのあるヒロイックな声を惜しみなく披露してチームを引っ張り、本公演の成功を確信させた。恋敵から友人になるフランクの清水勇磨も劣らず力強い美声で応え、陰の主役というべきティグラーナの中島郁子も同様で、3人のシーンの競演は聴きごたえがある。エドガールの恋人フィデーリアの髙橋絵理は声をセーブしながらの演技だが、抑えなかった声の清純な美しさは本公演に期待を抱かせた。二期会合唱団は難しい配置をものともしない迫力の歌唱で、TOKYO FM 少年合唱団は第3幕冒頭での重要な演技と整った歌声が印象に残る。

アンドレア・バッティストーニ
TOKYO FM 少年合唱団

 飯塚励生の舞台構成は、コンチェルタンテらしく過不足のないものだが、1か所、第3幕冒頭のレクイエムの場面だけ、2022年春以前ではあり得なかったであろう演出が加えられる。このレクイエムの音楽はプッチーニ自身の葬儀にも使われたそうだが、その流れを汲むアイディアでもあると言えそうだ。長期間かける演出の舞台と違って、時代を切り取る場面を柔軟に組み込めるのもコンチェルタンテ形式の長所かもしれない。「祖国」「復讐」といった言葉が現れるこの場面、いま漫然と通り過ぎるわけにはいかない。

右:北川辰彦(グァルティエーロ)
左より:清水勇磨(フランク)中島郁子(ティグラーナ)福井 敬(エドガール)

 最後に指揮者について。アンドレア・バッティストーニの日本デビューは2012年の東京二期会《ナブッコ》で、今年は彼のデビュー10周年に当たる。筆者は幸運にもその《ナブッコ》を聴けたが、「まだ25歳?」という懸念が冒頭の一音で吹っ飛んでしまったことが忘れられない。凄まじいテンション、勢い、輝きのある豪演に、序曲だけでブラヴォーの嵐に。そこから10年間の日本での活躍ぶり、人気のほどはご存じの通り。そのときのオーケストラだった東京フィルハーモニー交響楽団とは共演を重ねて、いまや首席指揮者のポストに。東京二期会とも良好な関係を続けて、この《エドガール》と秋の《蝶々夫人》で10周年を飾る。節目で選ばれたのが《エドガール》ということからも、彼のこの演目にかける意気込みが伝わる。

 果たして、4月21日のゲネプロでは、バッティストーニの思い入れと入念な準備が行き届いた、素晴らしいステージが実現していた。彼の情熱があふれ出る指揮姿は見ものだし、第1幕フィナーレのクライマックスなどは壮絶そのもの。稀少演目を最高水準の演奏で体験できるチャンス、ぜひともご注目を。

左より:福井 敬(エドガール)、髙橋絵理(フィデーリア)、中島郁子(ティグラーナ)清水勇磨(フランク)

《Information

二期会創立70周年記念公演
東京二期会コンチェルタンテ・シリーズ《エドガール》(新制作/セミ・ステージ形式上演)

(全3幕、日本語字幕付き原語(イタリア語)上演)

2022.4/23(土)17:00、4/24(日)14:00
Bunkamuraオーチャードホール

指揮:アンドレア・バッティストーニ
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

出演
エドガール:福井敬(4/23) 樋口達哉(4/24)
グァルティエーロ:北川辰彦(4/23)清水宏樹(4/24)
フランク:清水勇磨(4/23) 杉浦隆大(4/24)
フィデーリア:髙橋絵理(4/23) 大山亜紀子(4/24)
ティグラーナ:中島郁子(4/23) 成田伊美(4/24)
合唱:二期会合唱団

問:二期会チケットセンター03-3796-1831 
http://www.nikikai.net
http://www.nikikai.net/lineup/edgar2022/

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