戦後日本の音楽界で功績を残した名ソプラノを偲んで
昨年7月に94歳で静かに生涯を閉じた日本声楽界のレジェンド伊藤京子。戦後を代表するソプラノの追悼演奏会が、門下の永井和子らが出演して行われる。主催は日本演奏連盟。伊藤は1996年から2015年まで同連盟の3代目理事長を務め、音楽界の発展を先導した。
1949年、日本音楽コンクール第1位。1951年に《トゥーランドット》日本初演のリューでオペラの主要役デビューを飾った。最大の当たり役が、今回の公演タイトルにもなっている團伊玖磨の歌劇《夕鶴》(1952)の「つう」。1960年の初役以来25年にわたり演じ続け、この役の一つの完成形を作り上げた。
一方で日本歌曲にも精力的に取り組んだ。自然で聴きやすい日本語のディクションを活かしつつ、詞の表現にけっして過度に寄りかからない。旋律と言葉の絶妙なバランスで、現代的な日本歌曲のあり方をいち早く示したと言える。追悼公演が山田耕筰をはじめとする日本歌曲の代表的名曲で構成されたのは、故人の業績を振り返る機会としてじつにふさわしい。今後“21世紀のつう”の期待もかかる砂川涼子による、つうの名アリアも加わる。
出演は、ソプラノの砂川涼子、古瀬まきを、小林実佐子、メゾソプラノの永井和子、カウンターテナーの彌勒忠史、テノールの福井敬、中鉢聡、バリトンの大島幾雄、須藤慎吾、ピアノの森裕子、寺嶋陸也。幕開けには伊藤から後任を託された現日本演奏連盟理事長・堤剛のチェロ演奏も(ピアノ:野平一郎)。
文:宮本明
(ぶらあぼ2022年3月号より)
2022.3/14(月)19:00 東京文化会館(小)
問:日本演奏連盟03-3539-5131
http://www.jfm.or.jp