びわ湖ホール声楽アンサンブル 第74回定期公演 フォーレ「レクイエム」

新しい室内楽編の「レクイエム」への期待

 近代フランスのガブリエル・フォーレ(1845〜1924)は、歌声に格別の愛情を寄せた作曲家。16歳での処女作も歌曲〈蝶と花〉であった。その冒頭部ではピアノの上昇音型が清々しく連なって、「花のように大きく咲き、蝶のように高く舞う」彼の未来を象徴する。

 その後もフォーレは歌曲をたくさん書き、器楽曲も多く作り、オペラにも手を染めた。しかし、21世紀の今、「フォーレと声楽」といえばやはり宗教曲「レクイエム」になるのだろう。いまや「世界三大レクイエム」の一つとみなされ、演奏の機会は多い。

 ところが、この3月に大津と米原でびわ湖ホール声楽アンサンブルが取り上げる「レクイエム」は、特別な編成で披露されるとのこと。メンバー16名の透明感あるハーモニーを最大限に生かすべく、信長貴富編の室内楽バージョン(オルガン+弦楽五重奏/2020)で歌われるという。

 パリのマドレーヌ寺院でこの作品が初演された折(1888)、小編成の管弦楽と少年合唱&男声コーラスが演奏し、曲構成も現行の7楽章ではなく、5楽章と短めであったという。しかし、その後何度もフォーレは改訂を行い、現行のフル・オーケストラ版に至ったのは、1900年のパリ万博の際、「大ホールでの演奏を求む」と言われて書き直したからだそう。絵画に喩えるなら、水彩画のキャンバスを拡大して油絵具で描き直したといったところ。でも、油絵ならではの強いタッチがあるように、「レクイエム」も最終的には大編成版で世に存在を知らしめた。

 それゆえ、今回の室内楽編は、作曲者の原意を新しい形で探る、興味深い試みなのである。当日は園田隆一郎の指揮のもと、石上真由子(ヴァイオリン)、叶澤尚子と細川泉(ヴィオラ2挺)、北口大輔(チェロ)、大槻健太郎(コントラバス)、長田真実(オルガン)と気鋭の奏者勢が集う。精緻な響きを貫いて、コーラスを手堅く支えるに違いない。

 さて、びわ湖ホール声楽アンサンブルは、「オペラのソリストを務められる歌手たち」による若手集団である。しかし、今回の彼らは、この「レクイエム」で「響きを合わせ、整える」ことに全力投球。ソプラノやバリトンのソロを誰が担当するかも発表されていないのだ。でも、みな持ち前の豊かな声音を柔らかく絞り込み、新境地に臨むのだろう。その意気込みに期待したい。

 ちなみに、演奏会の前半は「人気の器楽曲をコーラス」で。ヴィラ=ロボスがもともと合唱で構想した「ブラジル風バッハ第9番」、エルガーの「エニグマ変奏曲」の第9変奏〈ニムロッド〉に祈祷句「永遠の光」のテキストを付けてアレンジしたもの(ラテン語:J.キャメロン編曲)、そして、バーバーの「弦楽のためのアダージョ」を作曲者自ら祈りのラテン語「神の子羊」用に書き直したものの3作である。これだけ凝った選曲ながら、「よく知っているメロディ」が続くので、ぜひ広い層に足を運んでいただければ。清冽な声に耳洗われるひとときを、どうぞお楽しみに。
文:岸純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ2022年3月号より)

2022.3/26(土)14:00 びわ湖ホール 大ホール
3/27(日)14:00 滋賀県立文化産業交流会館 イベントホール

問:びわ湖ホールチケットセンター077-523-7136 
https://www.biwako-hall.or.jp/