鈴木優人指揮 日本センチュリー交響楽団
古楽への招待13 鈴木優人 チェンバロ・リサイタル

マルチな才を発揮する鈴木優人の音楽宇宙を堪能する2日間

鈴木優人 (c)Marco Borggreve

 指揮者、鍵盤楽器奏者、作曲家、プロデューサーと、八面六臂の活躍を繰り広げる鈴木優人。改めて記すが、父はバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)音楽監督の鈴木雅明、叔父は2021年、神戸市室内管弦楽団の音楽監督に就任したチェリストの鈴木秀美というサラブレッドだ。鈴木優人はびわ湖ホール初登場で、2日続けて指揮とチェンバロの腕前を披露する。まず、日本センチュリー交響楽団との名曲コンサート「華麗なるオーケストラの世界 vol.4」。

 鈴木はBCJのチェンバロ奏者として有名であったが、近年指揮者としての活躍も目覚ましいものがある。それが認められて現在BCJの首席指揮者と読売日本交響楽団指揮者/クリエイティヴ・パートナーを務めている。大阪では2020年、関西フィルハーモニー管弦楽団定期に登場して、清新なモーツァルトとシューベルトを聴かせてくれた。日本センチュリーとは初共演で、前半はお得意のバッハ「ブランデンブルク協奏曲第5番」。もはや日本の代表的奏者と言って過言でない二人、川久保賜紀(ヴァイオリン)と上野星矢(フルート)の独奏も期待できる。しかし、なんといっても鈴木の弾き振り(チェンバロ)が注目だ。バッハが自らの腕前を誇示するかのように、難技巧を詰め込んだ長大なカデンツァがあるからだ。日本センチュリーはハイドンの交響曲全曲演奏録音が進行中で、そこではモダンオケでもピリオド奏法を導入しているので、その点でのアプローチも楽しみだ。

 この日の後半はシューベルトの「ザ・グレート」。「天国的な長さ」といわれる晩年の大作だ。晩年のシューベルトといえば、2017年に鈴木がフォルテピアノで伴奏し、テノールのユリアン・プレガルディエンと共演した「冬の旅」全曲の名演も記憶に新しい。指揮者としてたびたび現代音楽も取り上げ、関西フィルでは邦人作品だけの定期を喜々として振っていたのも思い出される。鈴木の解釈にはバロックや古典だけに限定されない幅広さと奥行きがある。「ザ・グレート」は読響でも取り上げてその熱演ぶりが話題となった。小型だが精緻なアンサンブルをもつオーケストラからどのような「ザ・グレート」を響かせてくれることか、期待は高まる。

日本センチュリー交響楽団 (c)Masaharu Eguchi

 翌日のチェンバロ・リサイタルは、大バッハを軸に同時代のフローベルガーやクープランから、ここでも現代音楽まで目配りの利いたプログラミング。バッハの「最愛の兄の旅立ちのためのカプリッチョ」はあまり演奏されない初期の作品だが、とても楽しい曲だ。「フランス組曲第4番」と「半音階的幻想曲とフーガ」で引き締める。息子のC.P.E.バッハの「ヴュルテンベルク・ソナタ第1番」も傑作だ。「夢見る雨」は武満徹の珍しいチェンバロ作品で、野平一郎「ランコントル」(出会いの意)は鈴木が委嘱初演した作品である。今回は鈴木家で長年愛用されたチェンバロを持ち込んでの演奏、意気込みも伝わってくる。連続公演は鈴木自身初のことで、しかもオーケストラと独奏の連続公演は、かのダニエル・バレンボイムら一部の巨匠にしか例がない。新春の2日間、まさに「鈴木優人の魅力」を体感できる好企画といえよう。
文:横原千史
(ぶらあぼ2022年1月号より)

びわ湖ホール名曲コンサート 華麗なるオーケストラの世界 vol.4
鈴木優人指揮 日本センチュリー交響楽団

2022.1/8(土)15:00 びわ湖ホール 大ホール
古楽への招待13 鈴木優人 チェンバロ・リサイタル
1/9(日)15:00 びわ湖ホール 小ホール
問:びわ湖ホールチケットセンター077-523-7136 
https://www.biwako-hall.or.jp/