INTERVIEW 高橋克典

自分が“共演者”としてステージに立てたということが、何よりも嬉しかったです

 9月から全国各地で開催されていた「クラシック・キャラバン2021」ツアーもいよいよ大詰め。没後50周年にあたる作曲家、ストラヴィンスキーの傑作《兵士の物語》をメインに据えたプログラムは、12月10日の第一生命ホール公演を残すのみとなった。ロシア民謡を題材として、指揮者と7人の楽器奏者に語りを加えて綴られる、兵士と悪魔が織りなすこの奇想天外な物語に、再び“一人三役”で挑む俳優の高橋克典に話を聞いた。

取材・文:東端哲也

Katsunori Takahashi 
All Photos: I.Sugimura/BRAVO

── 10月29日の公演は大成功でしたね。語り手と兵士、悪魔の三役をひとりで演じられていかがでしたか?

 最初の打ち合わせで、普通にスコアを渡されて(笑)自分は台本のようなものを想像していたから、楽譜の中に台詞が書かれていて驚きました。ここでこの言葉、というように読む場所が決められている、まるで楽器のパートのように。これまでに経験のあった、曲の合間に朗読みたいな作品とは全然違うんだなって。しかも音楽は変拍子の嵐で目まぐるしく変化する。中途半端に楽譜が読めるものですから、気になって目で追いかけているうちに見失ってしまうんです。リハーサルではマエストロにかなりしごかれました(苦笑)

── ジャン・コクトーが語り手をやった盤(イーゴリ・マルケヴィチ指揮)など、CDなども聴かれて参考にされたんですか?

 はい。フランス語のものや、ピンク・フロイドのロジャー・ウォーターズが英語で翻案したCDなども聴いてみましたが、やはり言葉のリズム感が全然違う。それに日本語版はかなり語句を削っているので、言葉足らずで朗読とは言えない。そんなざっくりした状況の中でどうやってドラマを作るのか、しかもクラシックの演奏として相応しい語り口で…というのが課題でした。でも結果、ミラクルが起きました!

── どのあたりがいちばん楽しかったですか?

 うちは父親が高校で音楽を教えていて、母親は藝大出の声楽家と両親そろってクラシックには造詣が深く、自分も小学生の頃はピアノとトランペットをやっていましたが、親に対する反抗心もあってクラシックとは距離を置くようになっていました。それが司会を4年間務めた「ららら♪クラシック」でいろんな作曲家の秘密に迫ったり、一流の演奏家たちとの出会いを通じて、その面白さを再発見するようになっていきました。そんな自分が今回は本当の意味で共演者として、ステージの上で音楽を演奏するという体験ができたことは、何よりも嬉しかったです。

── では、演奏者としてこの《兵士の物語》という作品の魅力は?

 変拍子に代表される強いストレスの感じられる構成が、戦争による混乱や経済的な困窮、抑圧を強いられた当時の人々やストラヴィンスキーが置かれていた状況を物語っていますし、スペイン風邪の流行で初演後に公演が中止になった経緯とか、どこでも上演可能な少人数での編成などが、コロナ禍に立ち向かう我々の「クラシック・キャラバン2021」のプログラムにぴったりで、まさに今聴くべき作品だと思います。物語はわかりやすくて、ちょっぴりシニカル。自分は兵士に感情移入してしまうので、あんな「金儲けができる魔法の本」があったらやっぱり誘惑に負けちゃうだろうな…と思ったりして(笑)最後には、まるで悪魔が勝つかのような結末も教訓めいていて、不思議な余韻を残しますね。

── 12月10日の公演も期待しています。

 1世紀も前に書かれた作品なので、価値観なども現代とはだいぶ異なるところがあるように思いますが、それも含めてお客さんにどのように巧く伝えて楽しんでもらえるか、俳優としての“語り”に掛かっている気がしますし、一方ではクラシック作品としての枠は不用意に超えないように気をつけたい。とにかく、最初の方が良かった…って言われないように頑張ります!

── 第1部の、スター演奏家が勢揃いした器楽曲や声楽曲のコーナーも楽しみです。

 本当にそうですね。自分も仲道郁代さんのピアノが好きなので、当日は舞台の袖から耳を傾けつついい演技ができたらと思います。


【Information】
クラシック・キャラバン2021
「クラシック音楽が世界をつなぐ」~輝く未来に向けて~兵士の物語

2021.12/10(金)18:30 第一生命ホール
♪エルガー:愛の挨拶op.12
♪モンティ:チャールダーシュ

 成田達輝(Vn) 仲道郁代(Pf)
♪ショパン:練習曲 op.10-12「革命」
♪ショパン:ポロネーズ第6番op.53「英雄」

 仲道郁代(Pf)
♪バッハ:無伴奏チェロ組曲ト長調第1番BWV.1007~プレリュード
♪カタルーニャ民謡(カザルス/編曲):鳥の歌

 川本嘉子(Va)
♪山田耕筰/北原白秋:からたちの花
 鵜木絵里(Sop)
♪ロシア民謡:黒い瞳
 妻屋秀和(Bas)
♪黒人霊歌:アメイジング・グレイス
 山下牧子(Mez)
♪ディ・カプア:オー・ソレ・ミオ
 工藤和真(Ten)
 山岸茂人(Pf)
♪ストラヴィンスキー:「兵士の物語」全曲
小林美樹(Vn) イシュトヴァーン・コハーン(Cl) 加藤雄太(Cb) 廣幡敦子(Fg) 高見信行(Tp) 加藤直明(Trb) 野尻小矢佳(Perc) 垣内悠希(Cond) 高橋克典(語り)


問:東京公演総合窓口 03-3943-7066
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