11/30|現代室内楽の夕べ 四人組とその仲間たち 2021

[池辺晋一郎 新実徳英 西村朗 金子仁美]+鷹羽弘晃の新作を世界初演!

 11月30日、東京文化会館小ホールで「四人組とその仲間たち」コンサートが開催される。今年90周年を迎える全音楽譜出版社が、同時代を生きる作曲家たちの新作を世界へ向けて発信するプロジェクト、今回で27回目となる。池辺晋一郎、新実徳英、西村朗、金子仁美、そして鷹羽弘晃をゲストに加えた5名の作曲家による世界初演の新作を、現代音楽にも造詣の深い指揮者でクラリネット奏者の板倉康明、NHK交響楽団首席トランペット奏者の菊本和昭など、国内外で活躍する第一線の音楽家が披露する。作品は全曲が世界初演の新作というから、最新のクラシック音楽を実力派による演奏で体験することができる貴重な機会だ。そして演奏会は、全音のYouTubeチャンネルでライブ配信も予定されている。

 公演に先立ち、作曲家の西村朗にコンサートの聴きどころや自らの作品について語ってもらった。

西村朗(C)東京オペラシティ文化財団 大窪道治

Q1 
「四人組とその仲間たち」このシリーズのご紹介をしていただけますか?

 これは、全音楽譜出版社(以下、全音)の主催による新作室内楽コンサートで、コロナ禍で中止となった昨年を除いて、毎年12月頃に催されてきました。第1回目は1994年で、提唱企画者は全音出版部の田中明さん(のち社長・故人)でした。全音が、積極的に支援する四名の作曲家を当時、田中さんは独特のユーモアを持って全音の「四人組」作曲家と命名し、その四人の作曲家への全音の委嘱新作初演を中心としたこの企画をスタートさせました。言うまでもなく、「ロシア五人組」「フランス六人組」をもじった命名です。ただし、これはグループや同志会ではなく、四人それぞれが個別自由に曲を書き出品させていただいてきました。加えて、ある時期から「仲間」として、毎回ゲスト作曲家も加える形にもなっています。出版社が長年にわたって主催を続けるこのようなコンサートは、おそらく世界にも類を見ないものと言えるでしょう。コンサートの模様はNHKによって収録される機会も多く、それはFM番組「現代の音楽」で放送されています。

Q2 
ご自身の曲の聴きどころは? 作曲の背景など教えてください。

 今回の私の出品作は、「極光」というタイトルのトランペットとピアノの二重奏曲です。
 極光とは、オーロラのことです。太陽風のプラズマは、地球の昼側に当たり、地球を青く輝かせます。そしてプラズマは裏の夜側にも回り込んで、高緯度の極域の大気中に神秘的に揺らめく多彩な光の帯オーロラを出現させます。この曲でトランペットは太陽風のプラズマを奏し、ピアノはそれを受けての夜側の大気とオーロラを表現します。オーロラは美しい自然現象です。そのようなことが未来においても保たれるように、地球環境の保全を祈る幻想曲として作曲しました。曲は今回の初演者であるN響首席奏者の菊本和昭さんに捧げられています。

Q3 
コロナ禍で作曲の姿勢(あるいは作品の内容)に変化はありましたか?

 仕事等での外出の必要性が明らかに減って、時間に余裕ができました。
 そこでこれまでの仕事を整理したり反省したりしてきました。自分にとっては有意義な時間を持てたと思います。作曲の姿勢や内容の変化にまではたぶん及んでいませんが。

Q4 
西村さんから見たそれぞれの作曲家の魅力を教えてください。

 金子仁美さんのお仕事はまことに独特で、作品以前に「作曲の方法」を生み出すといった困難でかつ魅力的な志をつらぬいてこられました。近年は「3Dモデルによる音楽」という独自の作曲法に取り組まれ、作曲要素を3D立体モデルで捉えるという画期的な思考法を確立されつつあります。今回の新作にも注目です。
 新実徳英さんの創作には、やはり独自の宇宙観や生命観があり、室内楽の分野でもそれがみずみずしく開示されてきました。このコンサート・シリーズを通しても、その思考の深化と発展は目覚ましく、毎回大変聞きごたえのある力作が生み出され続けています。新実さん独特の身悶えるような音の様態と東洋的な色調もとても魅力的です。
 池辺晋一郎さんは、このシリーズの新作では特に軽妙な筆致が光り、毎回コンサートの最後を飾る初演では、聴衆の皆さんに強い印象を与えて来られました。まさに才気煥発で、その創作の冴えに圧倒され魅了され続けています。モノヴァランスやバイヴァランスといったタイトルでの独奏曲や二重奏曲などは、様々な楽器のために作曲され、それらはすでにそれぞれの楽器と奏者にとっての重要なレパートリーとなっています。
 加えて、今回のゲストは若手作曲家の鷹羽弘晃さんで、その洗練された音楽性によって力みなく生み出される美しい作品には多くのファンがいます。今回も新鮮でみずみずしく輝く新作が期待されます。

Q5 
奏者の方も実力派ぞろいですが、どのようなところに期待しますか?

 このコンサートにご出演いただく演奏家の方々は、各作曲家が直接にそれぞれ個別に出演をお願いした方々です。新作を書く上で、初演者の想定は時に作品内容に深く関わります。今回も演奏は個性的でクリエイティヴな実力者揃いで、各作曲家のラブコールを受けて入魂の初演が繰り広げられるであろうことを期待します。

Q6 
コンサート中におしゃべりの時間があると聞きました。西村さんの司会で和やかなトークが展開されていますが、何か事前に準備をされているのでしょうか?

 あまり準備をすると対話が小さく固まってつまらなくなりやすいので、いきなりの即興的な対話をやっています。短時間のコーナーですが、毎回、ゲストのパーソナリティーを舞台上でなるべく生き生きと引き出せたらと思っています。

Q7 
マイブームは?

 この1年あまり拙宅近所の「林試の森公園」(目黒区)内を連日歩き回っています。そこでメタセコイアなど多種の木々と同じ空気を吸って、同じ光を受けて歩くとまさに命の洗濯で、感覚も活性化します。

Q8 
最後に、今回の公演の聴きどころをお願いします。

 すでに色々と述べましたが、今回は二年ぶりの開催ということでもあり、主催者も出品者も新たな出発という想いで、内容のいっそうの充実を図るべく、テンション高く、熱い想いを持って準備を進めております。特別な回と言えるでしょう。どうぞご期待ください。皆様のご来場を心よりお待ち申し上げております。

現代室内楽の夕べ 四人組とその仲間たち 2021
2021.11/30(火)19:00 東京文化会館小ホール
 ライブ配信あり
◎池辺晋一郎:バイヴァランス XVI 2本のファゴットのために
 長哲也(ファゴット)、福士マリ子(ファゴット)
◎新実徳英:ソムニウム クラリネットとピアノのために
 板倉康明(クラリネット)、中川俊郎(ピアノ)
◎西村朗:極光 トランペットとピアノのための
 菊本和昭(トランペット)、新居由佳梨(ピアノ)
◎金子仁美:H2O −3Dモデルによる音楽VIII− ヴァイオリンとピアノのための
 甲斐史子(ヴァイオリン)、大須賀かおり(ピアノ)
◎鷹羽弘晃:ガンマ・コレクション 2人の奏者のための
 望月豪(マンドリン)、山田岳(ギター)