豊嶋泰嗣(ヴァイオリン)

若手からベテランまで、名手たちが佐世保の地に集う

(c)中倉壮志朗

 長崎県を代表する文化拠点で、3つのホールを擁するアルカスSASEBOは、早くから「アルカスSASEBOジュニアオーケストラ」を発足させるなど、音楽文化を広く伝える活動を積極的に行ってきた。そのミュージックアドヴァイザーを務めるなど、アルカスと深い関係を築いてきたのが、新日本フィルをはじめ国内複数楽団のコンサートマスターとして活躍する豊嶋泰嗣。2016年には彼が音楽監督となって室内オーケストラ「チェンバー・ソロイスツ・佐世保」を旗揚げ。名手たちが集い、緻密かつ親密な演奏を作り上げている。

 「佐世保に滞在を重ねるうちに、アルカスで弦楽合奏をやりたいという話になり、16年に実現できたのが『ソロイスツ』です。拠点とする中ホール(500席)は自然な残響で、心地よい響きが客席に届くのが感じられ、舞台上も無理なく音が作れる。その特性を活かせる演奏団体があるのも、町の人にホールを愛してもらうために大切なことだと思いました」

 弦楽器中心の「ソロイスツ」のメンバーは豊嶋のほか、各地で活躍中の若手・中堅奏者に、彼が「本当に信頼できる同世代のヴァイオリニスト」という漆原啓子や「大学の同級生で、誰とでもフレンドリーに接し、場を明るくしてくれる」中野振一郎(チェンバロ)といった、経験豊富なベテランの名手が参加している。

 今年12月の第6回は、ヴィヴァルディの協奏曲「ペル・エコー・イン・ロンターノ」(漆原啓子)、ハイドンのヴァイオリンとチェンバロのための協奏曲(豊嶋泰嗣、中野振一郎)、モーツァルトのディヴェルティメント第15番と楽しくも充実の演目が並ぶ。ヴィヴァルディは通常の位置のソロと遠くに位置したソロが呼び交わすユニークな1曲で、“ディスタンス”がキーワードになりそう。

 「この曲を会場で体験すると、座る位置によって遠さの感じ方も聴こえ方もまったく違うはずで、ライブならではの面白さがあると思います。ハイドンは中野さんが早期から提案してくれていた作品で、本当に楽しく魅力的な曲です」

 モーツァルトのディヴェルティメント第15番は「弦楽合奏団は絶対にやるべき作品」と思い入れも深く、ひとつの挑戦と位置付ける。

 「ホルン2本が入りますが、ほぼ弦、特に第1ヴァイオリンの難しさはモーツァルト作品中でも屈指のもの。でもそこを乗り越えられたら最高で、演奏者の喜びも聴く側の楽しさも大きく、モーツァルトのすべてが凝縮された名曲です」

 今後の「ソロイスツ」については、「オリジナルの弦楽合奏作品は一通り網羅したいし、今後は少しずつ管の入った曲で響きや表現の幅も広げていきたい」と語る豊嶋。その情熱の土台には、佐世保という土地への思いがある。

 「佐世保の方々には熱心に聴いていただいています。そして食べ物が旨いんです!(笑) 港町で人を受け入れるオープンな雰囲気があり、海産物など食の宝庫というのも含めて、人と食と文化の結びつきの豊かさを感じられるのです」

 地元や近県の方にはぜひとも体験してほしいし、可能な状況になれば遠方からもぜひとも訪れて、彼らの贅沢な音楽と名産の食事を心ゆくまで堪能したい。
取材・文:林 昌英
(ぶらあぼ2021年11月号より)

アルカスSASEBO オリジナル室内オーケストラ
チェンバー・ソロイスツ・佐世保
2021.12/10(金)19:00 アルカスSASEBO(中)
問:アルカスSASEBO 0956-42-1111
https://www.arkas.or.jp