荒井英治(ヴァイオリン/モルゴーア・クァルテット)

ヨコスカにモルゴーアのタルカスが襲来!

モルゴーア・クァルテット 
左より:藤森亮一(チェロ)、戸澤哲夫(ヴァイオリン)、小野富士(ヴィオラ)、荒井英治

 11月の週末、モルゴーア・クァルテットが、ヨコスカ・ベイサイド・ポケットで熱いライブを開催する。前半は得意のショスタコーヴィチ第4番とグレツキ第1番、刺激と思索あふれる20世紀作品2曲。後半は彼ら最強のレパートリーとなったプログレッシヴ・ロックから、エマーソン・レイク&パーマー(ELP)の3曲。しかもメインは待望の「タルカス」! 日本で最もアツい四重奏団の本領発揮のプログラムだ。この日に向けた思いを、第1ヴァイオリンの荒井英治に語ってもらった。

前半と後半で静と動の対比、最後は爆発

 「モルゴーアとして初の横須賀公演になります。実は2年前に予定していましたが事情で延期になり、ついに実現できるのが本当に嬉しいです。前半は当初の案から変更しました。コロナ禍もあったせいか、よりモルゴーアの血が濃い、ちょっと過激な曲目にしたくなって(笑)。前後半は大きく言えば“静”と“動”の対比。前半2曲は激しい場面もあるけれど、静けさの印象が強い。静かな曲は聴く人を考えさせて、心の深みに入っていく。そんな思考ができる時間になると嬉しいですね。後半は一気に音が多くなり、エネルギーを爆発させます!」

 各曲についても明確なビジョンと意図があり、思いが深い。

 「ショスタコーヴィチの第4番は最初は明るく始まるけど、だんだん怪しくなっていき、最後は意味深長な終わり方。ダイナミックで重厚だし、ユダヤ音楽の影響や思うように初演できなかった経緯もあり、重いものが伝わってくる1曲です。ポーランドのグレツキの作品も選ばれた音の意味が非常に重く、今回弾く第1番はコンパクトだけどメッセージがしっかり伝わる、とても優れた作品。ロック的な要素もあり、後半のELPにも繋がります」

 実はキース・エマーソンとモルゴーアの共演計画があったそうで、彼が亡くなって実現は叶わなかったが、「彼の曲を演奏することが僕らからの返礼。何度でも弾きたい」と力強く話した。

 「『聖地エルサレム』はELPバージョンをトレースした新しい編曲の初演になります。やはりいい曲で、ピリッとしたところもある。『スティル…ユー・ターン・ミー・オン』もいい曲で、大曲の前に落ち着きも作れます。そして『タルカス』! アルマジロが変身した戦車が海に帰っていくストーリーですが、かつての軍港である“横須賀にタルカスの戦車が来た!”というのが直感的に面白いと(笑)。約20分の大作で技術的には難曲ですが、演奏を重ねることでもっと自由に爆発できると思います」

困難な状況からの復活

 新型コロナウイルスによる制限の始まった昨年は、モルゴーアとしても、複数の楽団でコンサートマスターを務める荒井にとっても、困難な時期だったという。

 「予定が次々なくなり、ヴァイオリンを弾く意味について考えさせられ、気持ちの中でどこか柱が抜けてしまった状態でした。モルゴーアも年2回継続してきた定期演奏会が中止になり、久しぶりにお客様の前で演奏できたのは昨年9月の北とぴあ公演。熱気と緊張感のなか、ホールでお客さんを前にしたとき、4人の音にプラスアルファの力が加わったことを実感して、とても新鮮な気持ちで演奏できました」

 本公演同日からプログレのレジェンド、キング・クリムゾンが来日公演を開始予定とのことだが、モルゴーアのELPもまたひとつの真髄を示していると言えるだろう。横須賀の主催者も“モルゴーアの「タルカス」を実現したかった!”と興奮を隠さない。荒井はチラシに「モルゴーアのロックやショスタコーヴィチは、『弾く』なんて次元ではなく『噴く』のだ!」と檄文を寄せている。

 モルゴーアのタルカス、ヨコスカで“噴く”様を見逃すな!
取材・文:林 昌英
(ぶらあぼ2021年11月号より)

横須賀芸術劇場リサイタル・シリーズ64 モルゴーア・クァルテット 
クラシック/プログレッシヴ・ロック 名曲選
2021.11/27(土)15:00 ヨコスカ・ベイサイド・ポケット
問:横須賀芸術劇場046-823-9999
https://www.yokosuka-arts.or.jp