舞台上22台のカメラが奏者の息づかいまでも捉える!「パフォーマーズビュー・システム」が実現する新しい音楽の楽しみ方

 「芸術活動×ニューノーマル」をテーマに掲げ、コロナ禍における芸術活動の継続に向け、様々な取り組みをしている東京藝術大学COI拠点。そのオンライン上での活動プラットフォーム「バーチャル藝大」で新たな試みが始まろうとしている。

(c)渡辺保彦

 2021年8月に河口湖ステラシアターで開催された「富士山河口湖音楽祭2021」、サクソフォン奏者・上野耕平さんがコンサートマスターを務めるぱんだウインドオーケストラのコンサートの模様を収録した配信がスタートする。コースは2つ。ひとつ目のAチケットは、ユーザーが5つのアングルから自分の観たい映像をセレクトできるマルチアングル、もう一方のBチケットは、マルチアングルに、パート別に撮った22アングル(!)を選択できる「パフォーマーズビュー・システム」が追加されている。舞台上に設置された22台のカメラの映像は、演奏している奏者をまるで目の前で観ているような感覚で、演奏している時だけでなく、次の演奏に向かう準備をしているところなども捉えているのが興味深い。さらに、音にも注目だ。その位置でオーケストラの音がどのように聴こえるのか、そして映っている奏者が出している音をはっきりと聴くことができるのだ。実際に吹奏楽部で演奏している若い奏者には大いに参考になるだろう。

 9月中旬、横浜市内のJVC KENWOODで行われた「パフォーマーズビュー・システム」の試写会に参加した上野さんに、河口湖音楽祭について、そして試写の感想を聞いた。

── 今年の河口湖音楽祭、いかがでしたか?

いやー、楽しかったですよ。去年は無観客になってしまいクリニックだけを生配信でやりましたが、今年はお客さんも入って、フル編成のバンドがいて、吹奏楽の名作たちがズラッと並んで。もう、幸せでしたね。

── でも2日間、本当に朝から晩までの活躍でしたね?

はい(笑)なかなか大変でした。

(c)渡辺保彦

── 現場では疲れているように見えませんでしたが?

東京に帰ったあとが大変でした(笑)1週間くらい体のどこかしらが痛かったです。でも楽しかったですね。いろいろな音楽が集っているというか。演奏者もそうですし、学生もそうでしたし、この状況のなか聴きに来てくださる方も。とても濃い音楽空間だったと思います。

── 今、コロナ禍で吹奏楽人口が減ってしまっているという声もありますが、どのように捉えていますか?

今は都道府県によって対応も異なるので、コンクールの前日まで吹いちゃいけないところがあったりとか、本当にかわいそうです。だから昔と比べて練習時間を圧倒的に短くせざるを得ないので、より効率的に上達するということが問われているのではないでしょうか。

写真提供:河口湖音楽祭

── これまで新しいテクノロジーを使ってレッスンはしてきましたか?

通常のウェブ会議のツールを試しましたが、時差があったり音が良くなかったりして1回だけになってしまいました。それ以降のレッスンは、感染対策を徹底して対面で行っています。

── そんななかでの今回の藝大のプロジェクト、撮影された映像を実際にご覧になられていかがでしたか?

最高です!もう最高ですよ。これが欲しかったものって感じです。まず、自分が見たいところが選べるというところ。そしてそれが細部まで見られる。さらにその場所によって音が変わるというのが素晴らしい。これは今までになかったものです。既存の映像も、ソロを演奏している人に寄ったりとかはできても音はそのままでした。でもこれは、見ている奏者によって音が変わるところがすごい。まるで目の前で見ているよう。音楽って教わるよりも盗む方が多いと思うんです。自分が憧れるプレーヤーの演奏を聴いて吸収していったり。そのスピードが上がると思うんです。

── 何度も見られますしね。

我々も振り返れるんです(笑)

── 見る人の幅が広そうですね。

めちゃくちゃ広いと思います。単純に吹奏楽を俯瞰で見ていた人が、パーカッションのアングルを見たら「こんなにマレット替えているんだ!?」と思うのではないでしょうか?それを家に居ながらにして見られる。吹くタイミングなども、トゥッティ(全員)で吹いている映像ではわからないので画期的ですね。コロナ禍において生演奏じゃない楽しみ方も広がってきましたけど、生演奏に代わるものは僕はないと思っているんです。でも、これは新たな楽しみ方の始まりですよ。すごいことが起きているなと思っています。

(c)渡辺保彦

── でも、ずっと撮られているということは奏者としては気が抜けませんね?

一切気が抜けない(笑)でもこれって、いいことしかないんです。演奏者も絶対レベルアップすると思いますし。奏者自身も振り返って見られるというのも画期的ですね。僕も絶対に見ます。

── 最後に、演奏活動が制限されてしまっている若い人たちにメッセージをお願いします。

活動ができなかったとしても、音楽の魅力が損なわれるわけではなく、一生続いていくものだと思うんです。だからぜひ、広い視野で見て欲しいなと思います。中学、高校の時にコロナ禍で活動ができなかったから、音楽と縁がなくなってしまうというのはとてももったいない。だからこそ、一生音楽を続けて欲しいですし、我々プロも今回のような新しいサービスを取り入れて、いろいろな音楽の楽しみ方を共有していきたいです。


 配信は、10月15日スタート。これまでのライブ配信とは一線を画す、新しい映像体験に期待したい。

パフォーマーズビューシステム
パフォーマーズビューシステム

《配信サイト》
https://geidai.biz/pwo/

《出演》
ぱんだウインドオーケストラ
コンサートマスター:上野耕平
指揮:石坂幸治

《曲目》
1. 前久保諒:Pandastic!! 
2. 宮川彬良:僕らのインベンション
3. 酒井格:たなばた  
4. R.シュトラウス(A.デイヴィス編):万霊節 
5. ホルスト:吹奏楽のための第1組曲
6. A.リード:アルメニアン・ダンス パート1、パート2
7. 和泉宏隆:宝島(アンコール曲)

《チケット料金》
・Aチケット:1500円
(5アングルを選択可能)
・Sチケット:2500円(Aチケット+1000円)
 5チャンネル+パフォーマーズビュー・システム(パート別22アングルを選択可能)
 *パフォーマーズビュー・システムは1〜5を収録