鈴木恵里奈(指揮)

自分が楽しいと思う場所にいたら、自然とオペラにたどり着いた

 日生劇場、新国立劇場などで音楽スタッフを務め、2019年藤原歌劇団《蝶々夫人》で本格的にオペラ指揮者としてデビュー。以後、新国立劇場オペラ研修所《イオランタ》、藤原歌劇団《ラ・ボエーム》ほか、この2年間で5作品7プロダクションと続けざまにオペラの指揮台に立ち、着実にキャリアを積み重ねる鈴木恵里奈。日本ではまだ数少ない、コレペティトゥア、副指揮者からの道筋を歩むたたき上げの指揮者として11月、その出発点ともいうべき日生劇場で、ベッリーニのオペラ《カプレーティとモンテッキ》(演出:粟國淳)を指揮する。

 4歳からピアノを始め、小学4年でジュニアオーケストラ浜松に入団。「指揮を通して音楽を深く学びたい」と東京藝大指揮科に進学。声楽科の友人から次第にピアノ伴奏を頼まれ、「いつの間にか、歌の伴奏が生活の中心になっていた」。オペラ好きの先輩からは副指揮にと声がかかり、「副指揮がどういうものかもわからないまま、とにかく稽古に参加した」という。

 E年(エーねん・藝大3年生の俗称)の『藝祭』で初めてオペラを指揮。「家族のような関係のなかで切磋琢磨して創りあげていくオペラの面白さ」に触れた。以降もErinaとE年を重ねて『エリーナオペラ』として同級生とオペラ公演を行う。今回、テバルド役で出演する山本耕平とも一緒だった。

 大学院生のとき、コレペティトゥアの先生の目にとまり、11年、日生劇場《夕鶴》の副指揮として現場に入り、これが同劇場との初の協働となる。
 「自分が楽しいと思う場所にいたら、自然とオペラにたどり着きました」

 プッチーニのオペラが特に好きだという鈴木だが、ベッリーニにはプッチーニとは違う佳さがあると語る。

 「プッチーニは、言葉に即した色彩感がほんとうに素晴らしく、音楽に深く刻まれています。ベッリーニは、繊細ななかにも情感溢れる音楽がある。簡潔な和声で書かれているけれども、プッチーニとはまた違う豊かさがあります。何か特別な事をするのではなく、作品のもつ佳さを伝えたい」

 日生劇場での本作の上演は07年以来となる。
 「ベルカント・オペラの上演が増えることは、演奏家にとってもお客様にとってもいいことだと思います」

 最近、めきめきと頭角を現してきた若手二人(山下裕賀、加藤のぞみ)のロメーオ役への期待は大きい。
「オーディションでも二人は素晴らしかった。フレーズの繰り返しのようなところで、どういったバリエーションを入れてくるのか、それぞれに佳さがあるので、楽しみです」

 共演するオーケストラは、日生劇場での初仕事となった《夕鶴》のときと同じ、読売日本交響楽団だ。

 「オペラ熱があって、オペラ大好きな方が多い読響さんと今回は、中学・高校生のための『ニッセイ名作シリーズ』も含め6公演、稽古を入れると10回以上指揮させていただける。稽古から本番まで回を重ねるごとにどういう化学反応が起こるかワクワクしています。それに、指揮をしているとお客様からの反応を背中で感じるんです。《蝶々夫人》でも6回振って、毎回違ったように、お客様と一緒に作品を創りあげていくという部分もあると思います」

 自分では自然だと思っていても、振り返ってみると、いろいろな人との縁や出会い、折々にかけてもらった言葉で今日があると語る。

 「コンクールでの入賞とか、そういったものがないなか指揮する機会をいただけて、本当にありがたく思います。本番の機会を得るごとに、自分でも得るものがたくさんある。今後もオペラの世界で活躍し、いつかオペラのスペシャリストを名乗れるように恩返ししたいです」
取材・文:寺司正彦
(ぶらあぼ2021年10月号より)

NISSAY OPERA 2021 ベッリーニ《カプレーティとモンテッキ》
(全2幕、原語(イタリア語)上演・日本語字幕付)
2021.11/13(土)、11/14(日)各日14:00 日生劇場
問:日生劇場03-3503-3111 
https://www.nissaytheatre.or.jp
※配役など公演の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。