パウル・バドゥラ=スコダ(ピアノ)

私にとって音楽とは、“愛しい人”です

Photo:Irène Zandel 
Photo:Irène Zandel 

伝統あるウィーン・ピアニズムの継承者であり、格調高い音楽創りで聴衆を魅了する巨匠、パウル・バドゥラ=スコダ。世界の演奏史の一部を体現する存在である一方、わが国の演奏史にも深く関わってきた。そんなスコダが初来日から54年、遂にピリオドを打つことを決意。
「これが共に音楽の美しさを楽しむ最後の機会になるのは、とても悲しい」としながらも「皆さんのために演奏できることは、私にとって大きな喜び」と力を込める。
「一生懸命に聴いて下さり、すべてのアーティストにフレンドリーで、音楽が持つメッセージや意味をしっかりと受け止めてくれます。昔は、『ブラボー!』と叫ぶのも許されない雰囲気でしたが、近年では、その気持ちを臆せずに表現してくれるようになりましたね」と日本の聴衆を語るスコダ。さらに、日本人の宗教観をはじめ文化から、多大な影響を受けたことも明かす。
「豊かな自然、日本庭園、京都や奈良という都市の湛える奇跡的な美しさ、俳句、周囲の人々への様々な形での配慮、生活のあらゆる場面における美への追求…これらのすべてが、私の個性に深く根を下ろしています。もちろん、作曲家の意思に基づく演奏では、直接的な影響はありません。ただ、演奏に臨むための瞑想への興味は、以前よりも深まりました」
人生の中で最も幸福な瞬間に、1970年7月、作曲者フランク・マルタンの前で協奏曲第2番を披露した時を挙げる。
「マルタンから『君から幸福を与えられた』と伝えられたのです」。そして、「人々が人生で求める幸福。それは、『正しいことが出来た!』と感じた時にやって来る。私にとっては、作曲家の意図を理解し、実践できた時。そして、作品のメッセージを聴衆にお伝えできた時も、また別の幸福を感じます」
早くからフォルテピアノでの演奏に取り組む一方、常に軸足はモダン・ピアノに置いた。
「モダン・ピアノは、私にも皆さんにも、普遍的な楽器。かたや、フォルテピアノは“田舎で過ごす休日”みたいで、小さなホールに適します。大きなホールにおいては、大きな駅にいる孤独な犬のように、弱々しい音しか出ず、音楽を届けられなくなってしまう」
「前半はシリアスで悲劇的な曲、後半は明瞭で喜びに溢れる曲を選曲するなど、曲間のバランスとハーモニーを探った」という、最後の来日ステージ。
すみだトリフォニーホール公演では、まず、前半でモーツァルトの幻想曲ニ短調とハイドンのソナタハ短調、シューベルトの即興曲D899を。後半では東京交響楽団と共演し、モーツァルト最後のピアノ協奏曲第27番を弾き振りする。その他の地方公演ではハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンの名ソナタ集や、ショパンとシューベルト最後のソナタ第21番との組み合わせなど、いずれも深いメッセージ性を湛える。
「私にとって音楽とは、“愛しい人”です。もし可能ならば、バッハの『ゴルトベルク変奏曲』を勉強し、演奏してみたいですね。多くの演奏家がこの曲を弾いていますが、本当の意味で、この作品と向き合うことができている人は少ないと思います」
その夢と情熱は、尽きることがない。
取材・文:寺西 肇
(ぶらあぼ2014年5月号から)

★6月5日(木)・すみだトリフォニーホール Lコード:38517
問:パシフィック・コンサート・マネジメント 03-3552-3831
http://www.pacific-concert.co.jp


他公演(ピアノ・ソロ)
5/28(水)・福岡シンフォニーホール 問:エクローグ音楽事務所 0940-42-8747
5/30(金)・山口市民会館 問:山口市文化振興財団 083-920-6111
5/31(土)・松山市民会館 問:eatインフォメーション 089-946-2888 Lコード:69969
6/7(土)・広島/上野学園ホール 問:HOMEイベントセンター 082-221-7116 Lコード:69638
6/10(火)・横浜みなとみらいホール 問:神奈川芸術協会 045-453-5080 Lコード:37448
6/12(木)・名古屋/宗次ホール 問:宗次ホール 052-265-1718
6/14(土)・茨城/坂東市民音楽ホール 問:坂東市文化振興事業団 0297-36-1100