東京文化会館で2日間にわたり公開、実験の結果を広く提供
東京都交響楽団(都響)は「COVID-19(新型コロナウイルス感染症)影響下における公演再開に向けた試演」を東京文化会館大ホールで2020年6月11&12日の2日間、音楽監督の大野和士の指揮により行った。
初日は弦楽合奏。グリーグの「ホルベルク組曲」、チャイコフスキーの「弦楽セレナード」を素材とした。大野らは金管楽器や声楽の演奏距離についてのフライブルク大学や、ベルリンの6楽団とシャリテ医大の共同研究、6月5日のウィーン・フィル演奏会などの先行例を踏まえ、奏者間の距離を2メートルから次第に狭めたり、指揮台の前に立てたアクリル板も途中で撤去したり・・・で安全性、音楽性のバランスを探った。
2日目は慶應義塾大学の微粒子工学、聖マリアンナ医科大学の感染症などの教授らを交え、金管合奏(デュカス「ラ・ペリ」のファンファーレ)、木管合奏(ブラームス「交響曲第1番」第4楽章)、管弦楽(モーツァルト「歌劇《フィガロの結婚》序曲」と「交響曲第41番《ジュピター》」第1楽章)、オペラアリア(谷原めぐみ=ソプラノがヴェルディ《ラ・トラヴィアータ》の「花から花へ」、妻屋秀和=バスがモーツァルト《フィガロの結婚》の「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」)それぞれの飛沫拡散の実態を、同じく間隔や配置を変えながら測定した。
大筋では「かなり密に演奏しても問題はない」との感触を得た。大野は初日冒頭、社会的距離(ソーシャルディスタンシング)を徹底した配置の散漫な響きに衝撃を受けた様子。アイコンタクトやボウイングの細かな工夫から始め、最終的に従来と大きく変わりない配置へと収れんしたとき「ようやく、指揮者の頭上に響の〝球体〟のようなものを実感できた」という。初日は楽員全員がマスクを着用していたが、管楽器が加わった2日目は「ロックのライヴハウスのように狭い空間で絶叫しながら演奏するわけではないので、弦楽器も含め、演奏中はかけないでも大丈夫です」と、専門家からも指摘があった。詳しい分析結果は後日発表、他のオーケストラやアマチュア、ブラスバンド、合唱団などにも提供し、音楽界全体の活動再開に役立てる。
終演後、大野は「マイクを通さず、人肌の温もりや息づかいを伴った音は人間の生物としての営み、霊感、創造の基本であり、最後まで残る」、ソロ・コンサートマスターの矢部達哉は「コロナ禍で疲れ、傷ついた心と体のバランスを回復する上で、音楽は大きな影響力を持つ栄養素」と、それぞれ「コロナの時代」とともに生きる音楽家の確信を語った。舞台上の音楽家全員、3ヵ月半ぶりの〝リアル集団労働〟に大きな手応えと感激を得たようだ。
取材・文:池田卓夫
東京都交響楽団
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