
ドラマやアニメなどでいま平安時代はちょっとしたブームだ。平安文学『堤中納言物語』の一篇『虫めづる姫君』は、周囲から押しつけられる「姫としてのたしなみ」には目もくれず、自分の「好き」「推し」を貫き通す。その姿は現代の我々にも深く通じるものだ。
この公演で演出・振付を担当、そして姫君を演じるのは、世界的な舞踏カンパニー大駱駝艦で長年活躍した我妻恵美子である。東京文化会館の「シアター・デビュー・プログラム」はクラシック音楽と他ジャンルとのコラボによるオリジナル作品で青少年と劇場をつなぐもの。「平安文学とクラシック音楽と舞踏」という本作は、なかでもかなり異色だ。だが2022年の初演時には国際的な音楽賞にノミネートされるなど、高い評価を得ている。
白塗りにガニ股でビョンビョン飛び回る奇怪な「姫君」が強烈な印象を与え、男性舞踏手(塩谷智司、鯨井謙太郒)による「平安ラップバトル」など見どころは満載。そんな姫君に興味を持った貴族の殿方が、恋の歌とともにカラクリの蛇を贈って姫をからかうが……という楽しみな展開も待ち受けている。
音楽監督・作編曲・ピアノは加藤昌則である。管楽器と弦楽器と自らのピアノで構成した奏者陣が、ソプラノの三宅理恵とともにバッハ、モーツァルト、ベートーヴェン等の聞きなじみのある曲を演奏、子ども達も楽しく聴ける。さらに加藤自作の挿入歌〈手まり歌〉(歌詞は台本も書いたペヤンヌマキ)は、観客が帰り道で口ずさみたくなるほど親しみやすい曲で、舞台の余韻にふさわしい。新しい舞台体験にして、どこか懐かしさを感じる作品である。
文:乗越たかお
(ぶらあぼ2025年3月号より)
Music Program TOKYO シアター・デビュー・プログラム 『虫めづる姫君』
2025.6/20(金)19:00、6/21(土)14:00 東京文化会館(小)
問:東京文化会館チケットサービス03-5685-0650
https://www.t-bunka.jp