
東京都交響楽団のソロ・コンサートマスターとして音楽界をリードしてきた矢部達哉が、大田区民ホール・アプリコで新たなコンサート・シリーズをスタートする。「ようこそ♪矢部達哉のミュージックルームへ」と題し、気のおけない音楽仲間を迎えて年に1回ペースで開催予定。初回はなんと、矢部の妻でソプラノ歌手の澤畑恵美と、息子でN響チェロ奏者の矢部優典という矢部ファミリーに、ピアニストの松田華音を迎えての豪華共演となる。
「家族で共演なんて恥ずかしいんですけれど、これも縁だなと思って。人生って本当に、針の穴を通すような小さな偶然の積み重ねですよね。せっかく巡り合って家族になったのだから、一回ぐらいはいいかなと、最初で最後の共演のつもりでいます。息子はいつの間にかチェリストになっていましたし、家族で共演どころか、音楽についての話をしたこともありません。普段は犬の散歩を誰が担当するかをLINEで言い合っているような、ごく普通の家庭です。ですから僕自身、まったく想像ができていないんですよね。楽屋では“家の顔”になってしまうでしょうし……。そこに松田さんが入っていただくことで、殺伐とした家庭の雰囲気を中和していただけたらと(笑)」
クラシック初心者にも親しみやすいプログラムでありながら、聴き応えのある魅力的な曲が並ぶ。
「それぞれが今、いちばん演奏したい曲をLINEで出し合って決めました。ショパンの『序奏と華麗なるポロネーズ』はチェロの魅力を存分に感じられる曲ですし、メンデルスゾーンのピアノ三重奏曲第1番(3・4楽章)では華やかで美しい音楽をお楽しみいただけたらと。もしクラシックのコンサートがはじめてというお客さまがいらしたとしたら、こんなに素敵な曲がたくさんあるということをお伝えしたいです」
矢部がこのようなコンサートを企画した背景には、ここ数年で向き合ってきた“音楽家の役割”というテーマがあるという。
「キャリアも先が長くなくなった今、音楽家がこの世に存在する意味といったことを考えるようになりました。モーツァルトやベートーヴェンの音楽は、なぜ何百年も残っているのか、人種や国境の壁を超えて人間の根源的な魂に触れるものがあるからではないでしょうか。音楽家は作曲家と聴衆の間に入る代理人であり、それが我々の役割であることを実感したのはここ数年です。衣食住が足りていても、やっぱり人間は心が動かないと幸せには歩んでいけない。そのためにも、聴いてくださる方の心の糧になるような音楽をお届けできたらと思います」
ビギナーならずとも注目していきたいシリーズだ。
取材・文:原 典子
(ぶらあぼ2026年2月号より)
アプリコはじめのいっぽ♪コンサート
ようこそ♪矢部達哉のミュージックルームへ Vol.1
2026.2/28(土)14:30 大田区民ホール・アプリコ
問:大田区文化振興協会03-3750-1555
https://www.ota-bunka.or.jp
