ヴァイグレ指揮、読響10月定期
グリンカからショスタコーヴィチへ——民族の色彩と時代の息吹

左:セバスティアン・ヴァイグレ ©読響
右:北村 陽

 10月の読響定期は、常任指揮者セバスティアン・ヴァイグレが振る、凝った内容のロシア・プログラム。最初のグリンカ「カマリンスカヤ」は、“ロシア音楽の祖”が民族音楽を用いて作曲した、国民主義的な管弦楽曲の草分けであり、次のハチャトゥリアン「チェロと管弦楽のためのコンチェルト・ラプソディ」は、ロストロポーヴィチのために書かれた明快な20世紀作品だ。後半のショスタコーヴィチの交響曲第15番は、1971年に完成された作曲者最後の交響曲で、《ウィリアム・テル》その他の引用でも知られている。すなわち前半は民族的な作品の源流と発展を続けて味わえるし、後半は一転してモダンなロシア音楽を堪能できる。しかもグリンカ作品からショスタコーヴィチ作品への流れは、ロシアの調性音楽の変遷を示してもいる。

 ドイツの指揮者ヴァイグレは、お国ものと併せてロシア音楽に力を注ぎ、同国作品の重層感を明らかにしている。その点で前半2曲はピッタリだし、後半は一筋縄ではいかない交響曲の秘めたる魅力を感知させてくれるに違いない。なおショスタコーヴィチの15番は、ソロの多い室内楽的な音楽ゆえに、高機能で辣腕揃いの読響の本領が存分に生かされる。またチェロ独奏の北村陽への期待も大きい。若手世代随一の名手にして近年急激にスケール感や深みを増している彼は、22年ハチャトゥリアン国際コンクールの第2位受賞者だけに、今回の作品は打ってつけ。しかも極めてテクニカルなこの曲は、若き実力者の爽快な演奏でこそ醍醐味を味わえる。これは全てに手応え十分のコンサートになりそうだ。

文:柴田克彦

(ぶらあぼ2025年10月号より)

セバスティアン・ヴァイグレ(指揮) 読売日本交響楽団 第652回 定期演奏会 
2025.10/21(火)19:00 サントリーホール
問:読響チケットセンター0570-00-4390 
https://yomikyo.or.jp