世界のトップアーティストから気鋭の若手まで、聴き逃せない公演が勢ぞろい
文:飯尾洋一
昨年開館30周年を迎え、さらなる飛躍へと向かう北九州市立響ホールが、2024年度の主催事業ラインナップの一部を発表した。
ラインナップの柱となるのは「響ホールリサイタルシリーズ」。約1.8秒(満席時)の残響時間を誇り、音響のよさに定評のある同ホールで、トップレベルのアーティストたちが上質の音楽を楽しませてくれる。6月から来年3月にかけて、計4公演が開催される。
まず、6月22日に登場するのはダン・タイ・ソン。今や世界的な名匠となったベトナム出身のピアニストだが、その名が知られるようになったきっかけは、1980年のショパン国際ピアノ・コンクールでの優勝だ。アジア出身者として初めてこのコンクールで栄冠に輝いて大きな話題を呼んだ。以来、世界の檜舞台で着々と実績を積み上げてきた。
今回の公演ではフォーレ、ドビュッシー、ショパンを組み合わせたプログラムが披露される。ショパンといえばポーランド最大の作曲家だが、主たる活躍の場はパリ。その意味ではフランスが生んだ名曲集といってもよいだろう。フォーレの作品は、ともに繊細な詩情にあふれた夜想曲第1番と舟歌第1番。ドビュッシーからは「2つのアラベスク」「マスク(仮面)」「子供の領分」の3作品が並ぶ。「子供の領分」では作曲者の娘に対するやさしい眼差しが、ダン・タイ・ソンの成熟したピアニズムで表現されることだろう。ショパンの曲目は多彩だ。舟歌、2つの夜想曲(遺作)、5つのワルツ、スケルツォ第2番が並べられる。ショパンならではの華やかさ、ノスタルジー、情熱を存分に味わいたい。
9月23日は、現在もっとも注目される若手チェリストのひとり、上野通明が登場する。2021年ジュネーヴ国際コンクール・チェロ部門で日本人として初めて優勝を果たした逸材だ。さらに第21回ヨハネス・ブラームス国際コンクール優勝、第11回ヴィトルト・ルトスワフスキ国際チェロ・コンクール第2位など、輝かしいコンクール歴を誇る。上野は南米のパラグアイ生まれ。幼少期はスペインのバルセロナで過ごした経歴を持つ。桐朋学園大学ソリスト・ディプロマコースを経て、名チェリストとして名高いピーター・ウィスペルウェイに招かれて渡独。デュッセルドルフ音楽大学でドイツ国家演奏家資格を獲得し、さらにベルギーのエリザベート音楽院でも学び、国内外で活発な演奏活動をくりひろげている。あのヨーヨー・マが上野の演奏を動画で見て、「これで私も引退できる」と軽口を交えながら絶賛したエピソードが残っている。
今回のリサイタルでは、チェリストにとっての聖典ともいえるバッハの無伴奏チェロ組曲をはじめ、さまざまな無伴奏作品が演奏される予定だ。これまでにも無伴奏作品に取り組んできた上野だけに、チェロという楽器の可能性を突きつめたようなプログラムが組まれるにちがいない。たとえ超絶技巧の難曲であっても、難曲と感じさせないのが上野のチェロ。自然でのびやかな表現で作品の魅力を伝えてくれることだろう。
2025年1月25日に登場するのは、THE SIXTH SENSE(ザ・シックスセンス)。日本のトッププレイヤーたちによる木管五重奏とピアノからなるアンサンブルだ。メンバーは豪華。世界を舞台に活躍するフルート奏者、上野星矢をはじめ、オーボエの金子亜未、クラリネットの西川智也、ファゴットの長哲也、ホルンの濵地宗、ピアノの岡田奏といった第一線で活躍する名手たちが集う。
曲はプーランクの六重奏曲、テュイレのピアノと木管五重奏のための六重奏曲ほか。プーランクはこのジャンルの代表作だ。機知に富み軽快。テュイレはリヒャルト・シュトラウスとも交友のあったオーストリアの作曲家で、作風としては穏健で明快で、ロマン派の延長上にある。名手たちの親密なアンサンブルで、豊麗な音色をたっぷりと楽しみたい。
25年3月2日は、郷古廉のヴァイオリン、横坂源のチェロ、北村朋幹のピアノによるトリオが組まれる。早くからソリストとして注目を浴び、現在はNHK交響楽団でゲスト・コンサートマスターを務める郷古は、室内楽の分野にも精力的だ。チェロの横坂は2010年に第59回ミュンヘン国際音楽コンクール・チェロ部門で第2位を獲得し、意欲的な活動に取り組む。ピアノの北村は独自の視点と詩的感性から音楽の世界を探求する異才。三者三様の音楽家が集まって、オール・シューマン・プログラムが組まれた。曲は幻想小曲集 op.88、ピアノ三重奏曲第1番、同第2番、同第3番。これだけのシューマン作品を一度に聴ける機会は貴重だ。
これらリサイタルのほか、平日昼の「響ホールワンコインコンサート」では、ヴァイオリンの荒井里桜とピアノの小林海都が共演する(24.4/25)。45分間の短時間のコンサートながら、中身はフランクのヴァイオリン・ソナタなど聴きごたえ十分。全ラインナップ発表は3月下旬を予定しているとのことで、ほかに子ども向け公演も開催されるなど、2024年度も充実のラインナップが北九州の音楽界を彩る。
【Information】
響ホールリサイタルシリーズ
2024.6/22(土)15:00 北九州市立響ホール 3/22(金)発売
曲目/
フォーレ:夜想曲第1番 変ホ短調 op.33-1
フォーレ:舟歌第1番 イ短調 op.26
ドビュッシー:2つのアラベスク
ドビュッシー:マスク
ドビュッシー:子供の領分
ショパン:舟歌 嬰ヘ長調 op.60
ショパン:2つの夜想曲(遺作)
第21番 ハ短調(遺作)、第20番 嬰ハ短調(遺作)
ショパン:5つのワルツ
ワルツ第15番 ホ長調(遺作) KK.IVa/12
ソステヌート ワルツ 変ホ長調 KK.IVb/10
ワルツ第11番 変ト長調 70-1
ワルツ第10番 ロ短調 69-2
ワルツ第2番 変イ長調 34-1
ショパン:スケルツォ第2番 変ロ短調 op.31
料金/
S席:5,000円
A席:3,500円
25歳以下(A席)2,000円
*未就学児入場不可
*当日各500円増
2024.9/23(月・休)15:00 北九州市立響ホール 6/20(木)発売
曲目/
オール・J.S.バッハ・プログラム
無伴奏チェロ組曲第3番 ハ長調 BWV1009
無伴奏チェロ組曲第2番 二短調 BWV1008
無伴奏フルートのためのパルティータ BWV1013(チェロ版 二短調)
無伴奏チェロ組曲第4番 変ホ長調 BWV1010
料金/
4,000円
25歳以下:2,000円
*未就学児入場不可
*当日各500円増
2025.1/25(土)15:00 北九州市立響ホール 24.10/17(木)発売
出演/
上野星矢(フルート)
金子亜未(オーボエ)
西川智也(クラリネット)
長哲也(ファゴット)
濵地宗(ホルン)
岡田奏(ピアノ)
曲目/
プーランク:六重奏曲 FP.100
テュイレ:ピアノと木管五重奏のための六重奏曲 変ロ長調 op.6 ほか
料金/
4,000円
25歳以下:2,000円
*未就学児入場不可
*当日各500円増
2025.3/2(日)15:00 北九州市立響ホール 24.11/22(金)発売
曲目/
オール・シューマン・プログラム
幻想小曲集 op.88、ピアノ三重奏曲第1番 ニ短調 op.63、同第2番 ヘ長調 op.80、同第3番 ト短調 op.110
料金/
4,000円
25歳以下:2,000円
*未就学児入場不可
*当日各500円増
響ホールワンコインコンサート
2024.4/25(木)11:45 北九州市立響ホール 発売中
出演/
荒井里桜(ヴァイオリン)
小林海都(ピアノ)
曲目/
エルガー:愛のあいさつ
フランク:ヴァイオリン・ソナタ イ長調
フバイ: カルメンによる華麗な幻想曲
料金/
500円
*未就学児入場不可
北九州市立 響ホール
https://www.hibiki-hall.jp