前橋汀子カルテット

レジェンドたちが奏でる至高のベートーヴェン

左より:前橋汀子、久保田 巧、原田禎夫、川本嘉子

 昨年演奏活動60周年を迎え、日本を代表するヴァイオリニストとしては前人未到の長期にわたり、トップを走ってきた前橋汀子。記念CDのベートーヴェンの協奏曲は充実しきった演奏で、決めどころのキレと表現の強さは凄まじいものだった。その前橋が近年、活動の柱としているのが弦楽四重奏。ソナタや協奏曲に留まらず、ベートーヴェンの真髄をさらに追究するべく、「前橋汀子カルテット」を結成したのである。メンバーは第2ヴァイオリン久保田巧、ヴィオラ川本嘉子、チェロ原田禎夫。元東京クヮルテットの原田をはじめ、室内楽を知悉した最高の名人が並ぶ。最先端で活躍してきたアーティストが集ったことで、結成から最高水準の演奏を実現して賞賛を集めている。

 高崎芸術劇場公演で聴かせるのはもちろんオール・ベートーヴェンで、4番、11番「セリオーソ」、14番の3曲。初期・中期・後期から1曲ずつで聴きやすい演目。さらに深読みすれば、16番までを数える彼の弦楽四重奏曲のうち、短調をとる楽曲は5曲のみ(4・8・11・14・15)。意外と数多くはない彼の短調作品に集中して取り組む、特別な意欲が伝わるプログラムなのである。ことに作曲家が辿り着いた融通無碍というべき境地の音楽で構成された14番は、四重奏団のすべてが要求される究極的な作品。「前橋汀子カルテット」ならそれにふさわしい奏者がそろっているし、活動60年を超える巨匠・前橋が奏でる14番の世界はまさに類のないものとなる。彼らの円熟と覚悟をしっかり味わいたい。
文:林昌英
(ぶらあぼ2023年2月号より)

2023.3/29(水)14:00 高崎芸術劇場 音楽ホール
問:高崎芸術劇場チケットセンター027-321-3900 
http://takasaki-foundation.or.jp/theatre/