歌劇《400歳のカストラート》が、6月26日に東京文化会館、7月3日に西条市総合文化会館(愛媛)、7月10日に四日市市文化会館(三重)で再演される。4月26日、東京文化会館で取材会が行われ、主演で企画原案・選曲も手がける藤木大地のほか、脚本・演出・美術の平常(たいらじょう)、朗読の大和田獏、大和田美帆が参加した。
本作は、現代には存在しない「カストラート」を主人公に、現代にも通じる葛藤や喜びが描かれる。バロックから現代音楽まで400年を超えるクラシック音楽史の名曲で構成される、小規模なオリジナル・オペラ。カストラートとして400年を生きた一人の男を通して、「永遠の命があったら、どんな人生を歩むのだろうか」と問いかける。
2020年2月15日に東京文化会館小ホールで初演され、同年12月には宮崎で上演。今回は、初演と一部メンバーの変更はあるものの、主要な出演者陣は同じ顔ぶれが揃った(主演の藤木、朗読の大和田獏、大和田美帆)。音楽監督とピアノを務める加藤昌則、ヴァイオリンの成田達輝、周防亮介、ヴィオラの東条慧、チェロの上村文乃による五重奏で24曲を演奏。オペラでは合唱を含め大勢の歌手が登場するが、この作品では歌手はたった一人で演じ、朗読が物語を進めていく大きな力となる。
藤木は、初演を以下のように振り返る。
「ちょうど初演の直後から、コロナによって活動が制限される状態が長らく続きましたが、『あれが最後になっても良い』と思えるくらい、素晴らしい悔いのない作品を作れたと思います。平さんとアイディアを交換しながら目指してきたのは、この作品が東京文化会館だけに留まらず、各地の劇場や海外に持っていける形にするということ。今回、2つの劇場が加わって、新たに3人の奏者が加わり、少しずつ広がっていくのが嬉しいです。私は横浜みなとみらいホールでプロデューサーを務めていますが、劇場が社会に何を発信するか、劇場同士が連携してどういうことができるか、そういったことにも興味があります」
ヘンデルのオペラ・アリアやベートーヴェン〈アデライーデ〉に加え、加藤昌則がこの作品のために書き下ろした〈絶えることなくうたう歌〉など、13曲を歌い上げる。
藤木を徹底取材し今作の脚本を書き上げた平は、演出と美術も担当。これまでの同館主催公演でも、人形劇俳優・演出家として、一つの柱を軸に既存の音楽作品を組み合わせた新作を手がけてきた。
「“ジュークボックス・オペラ”と言えるような、一回の公演で時系列で音楽史を辿っていく作品になっています。実際に起きた歴史の事実を融合させたファンタジー作品。人間が直面するであろう葛藤や悩み、喜びといった感情がクロスオーバーし、お客様が主人公と自分に重ねて共感できるようなシーンがいくつも登場します。わずか2時間ほどのステージで、400年の時空の旅を体感してもらうのは至難の技でしたが、藤木さんと五重奏アンサンブル、そして朗読の融合は本当に見事ですのでお見逃しなく!」
大和田獏と大和田美帆は、親子での舞台初共演となった本作。互いに役者として尊敬できる現場だったと語る。
大和田獏「オペラという世界に飛び込むことは、どんなことになるのか想像もできませんでしたが、藤木さんの歌声を聴いて魅せられました。『この人とお仕事してみることは、すごい面白いものが生まれるのでは』という気持ちが湧いて、やってみようかと。稽古を重ねるなかで、音楽に囲まれて、歌声に包まれるうちに、思いもよらない感情が生まれて、自分でも想像もつかないような朗読ができて。本当に気持ちの良い稽古の日々でした。初演の本番はとても緊張しましたが、周りの友人から高評価ももらえて、挑戦してよかったと心から思っています。娘との共演は、最初は照れくささなどもありましたが、役者としてお互いを尊重し、良い経験でした」
大和田美帆「演劇では、台本がある作品に取り組むことが多いのですが、ここまで未知の作品に関わるのは初めてかもしれません。“わからないものにトライしてみたい”という気持ちから、思いがけない稀有な経験を積むことができました。クラシック音楽は敷居が高いイメージでどこか壁を感じていたのですが、音楽のほうから私の中に入ってきてくれて、サーフィンのように音楽にのせてもらえたような感覚。『楽しい〜!』と思わず心が躍って、『クラシック音楽ってこんなに身近なんだ!』と気づかされた体験でした。私のようにクラシック音楽に触れてこなかった方にも、この作品をきっかけに音楽の素晴らしさに出会ってほしい。父との舞台は、ステージの端と端で離れているのですが、息を合わせて朗読する場面があり、相手の気持ちを想像して一緒に立ち、語ることができた親子ならではの共演でした。初演の時、現場での父を初めて見て尊敬しました。働いている姿を見られるのは貴重なことですね」
オリジナリティー溢れる新制作の舞台は、せっかく作り上げても初演で終わってしまう作品も多い。今作は、再演が実現することで作品自体も成熟し、演者の中に入った状態で上演を重ねていくことができる。平が語るように、音楽が人々にもたらす生きる希望や勇気を、この作品でどう表現されるのか、観客側もしっかり考えて臨みたい。
この作品のテーマは「生と死」。大和田親子は最後、以下のように締めくくった。
大和田獏「私たちを取り巻く社会は初演時から大きく変化し、コロナや戦争によって現在も命が奪われています。人間は誰しも必ずいつかは命を終えますが、その死が誰か(何か)から奪われるものであってはならないと思います。その人が命を貫くことができるのは“平和である”ということ。命の重みや大切さを心にとめながら演じたいです」
大和田美帆「2020年の宮崎公演では、コロナ禍で命を扱う作品をお客様がどうご覧になるだろうかという心配もありました。この作品を観て、どのように感じ、命に対してどう向き合うのか。初演をご覧になった方にも、何度でも重ねて、音楽やストーリーを感じ取ってもらいたいです。芸術は、人々が辛いとき、少しでも顔を上げて前向きになれる存在だと信じています」
東京文化会館 舞台芸術創造事業/国内外連携事業 《400歳のカストラート》(再演)
2022.6/26(日)15:00 東京文化会館 小ホール
問:東京文化会館チケットサービス03-5685-0650
2022.7/3(日)13:00 愛媛/西条市総合文化会館
問:西条市総合文化会館 0897-53-5500
2022.7/10(日)14:00 三重/四日市市文化会館 第一ホール
問:四日市市文化まちづくり財団(四日市市文化会館)059-354-4501
東京文化会館
https://www.t-bunka.jp