鈴木理恵子(ヴァイオリン)& 若林 顕(ピアノ)

オーケストラの多様な色彩をデュオで表現したい

C)Wataru Nishida

 ヴァイオリンの鈴木理恵子とピアノの若林顕が、この3月、意欲的な演目によるデュオ・リサイタルを行う。鈴木は、2008年からビヨンド・ザ・ボーダー音楽祭を主宰し、横浜の戸塚でも室内楽シリーズを展開。日本を代表する名手・若林も出演している。ただ両者の室内楽はあくまで「デュオがベース」(若林)。二人は10年以来数多く共演を重ねてきたが、東京でのリサイタルは約2年ぶりだ。

デュオのありかたを位置づけたモーツァルト

 プログラムは、評価の高いモーツァルトのヴァイオリン・ソナタ集の最新CD(Vol.3)に含まれたK.306に、公演に合わせてCDがリリースされるレスピーギとフランクの両ヴァイオリン・ソナタを加えた3曲が核となる。
 若林「モーツァルトのデュオは、ピアニストとして大きな分岐点になりました。なぜなら、彼女の艶のある伸びやかな音楽に合わせるには、音や色の作り方等、あらゆる点で高度な表現が求められ、それを工夫していく中で発見したヒントは、他の作曲家の作品やソロ演奏にも直結しているからです。つまり今回のモーツァルトは基盤となるもの。そしてフランクではオルガン的な重厚さやスケールの大きさ、レスピーギでは光輝を放つような色彩感が必要ですから、よりバージョンアップした演奏でヴァイオリンと融合し、ホールをファンタジーの世界で充たしたい。それゆえ私にとっては、ソロにも勝る重要なコンサートでもあります」
 鈴木「ピアノ=オーケストラが1つのコンセプト。作曲家が管弦楽曲と同様に渾身の力を込めた様々な要素を表現したい。すなわちヴァイオリンは伸びる音の中で多様なニュアンスを、ピアノは膨大な声部の中で色々な楽器を創出すること。今回はそこに近づけるような作品を選びました」

レスピーギ、ブロッホ、武満を描き分ける

 フランクのソナタは有名だが、レスピーギのソナタはかなり珍しい。
 鈴木「フランクでは、壮大さと様々な色彩感を共存させたい。レスピーギは3楽章で25分くらいの曲。初めて聴いた時、イタリアの彫刻を彷彿とさせるものがありました」
 若林「フランクでは、両楽器の拮抗するようなせめぎ合いだけでなく、フランス的な色合い、内的な葛藤や情念を表現し、初めて耳にするかのような演奏を目指したいと思っています。レスピーギは、非常にロマンティックでオーケストラ的な作品。『ローマ三部作』同様の色彩感がピアノで描かれていく中を、ヴァイオリンが縦横無尽に動きます。これはもっと有名になってもいい曲ですね。凄く聴きやすいし、彼女の持ち味にも合っています」
 このほか、ブロッホの無伴奏ヴァイオリン組曲第1番と、武満徹の「悲歌(エレジー)」も披露される。
 鈴木「ブロッホは、短い部分が切れ目なく続く約8〜9分の曲。ユダヤ人の哀しみ、苦しみや怒り、平和への祈りや希望等が凝縮された音楽で、彼が晩年に伝えたかった崇高な思いを感じます。『悲歌』は、近年海外で弾いて、改めて日本の文化や自分が日本人であることを見つめ直すことができました。思い入れも強くなり、今回ぜひ入れたいと思いました」

絶妙なデュオは夫婦ならでは

 お互いパートナーとして得るものも大きいという二人は、実生活では夫婦でもある。
 鈴木「ピアノは平均律の楽器なのに、精緻なタッチやペダル等で調性ごとに音程を変えられる点が彼の凄さ。思い通りの和声感を作れるので、自由にやらせてもらっている感覚があります」
 若林「彼女のヴァイオリンにアジャストしていく中で触発される部分が多い。オーケストラ経験も長いので、以前からの私の信念でもある“ピアノもオーケストラのように”という考えに結びつき、勉強になることばかりですし、以前は関わりが薄かった民族音楽や現代音楽的な感覚に着眼するきっかけももらっています」
 呼吸の合った実力者のデュオ。大いに楽しみだ。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ2018年2月号より)

鈴木理恵子(ヴァイオリン) & 若林 顕(ピアノ) デュオ・リサイタル
2018.3/16(金)19:00 紀尾井ホール
問:アスペン03-5467-0081 
http://www.aspen.jp/