宮崎陽江(ヴァイオリン)

ベートーヴェンに寄せる真摯な熱き思い

 しなやかな音楽センスと艶やかな音色を武器に、スイスと日本を拠点とした、グローバルな活躍を続けるヴァイオリニストの宮崎陽江。「作曲家が真に表現を望んだ“何か”が聴き手の魂に伝わった瞬間こそ、自分の歓び」と語る才媛が『ヴァイオリン協奏曲の夕べ』と題した東京と札幌でのステージで、大友直人指揮の読売日本交響楽団と札幌交響楽団との共演を得て、ベートーヴェンの協奏曲を披露する。
「学生時代は“苦悩を突き抜け、歓喜へ至る”というベートーヴェン自身のテーマに、勇気付けられました。自分が成長期でしたので、骨の髄まで染み込んでいる感覚です。そして今、彼の作品を弾くたび、常に原点に戻る気持ちで取り組んでいます。ベートーヴェンには、彼以前のみならず以降の作品まで包含する要素があり、まるで“ダム”のような存在です。また、この協奏曲は古典とロマン派の間に位置し、堂々とした作風の中にも核のように内包された悲哀があります」
 札響とは、チャイコフスキーなど協奏曲のソリストとして毎年のように共演。
「このオーケストラとの共演は活動の“ベース”といえるかもしれません。でも、“常に一期一会のつもりで”と気持ちを引き締めてもいます。一方の読響とは、初めてご一緒します。ベートーヴェンの傑作を、円熟のマエストロ・大友先生と共に演奏できることはこの上ない喜びです」
 3歳からヴァイオリンを始め、「当初から、楽器と不可分だった」という宮崎は、ジュネーヴ高等音楽院などに学んだ。
「“楽器を忘れろ”という金言に見る、“こだわりを外せ”と言わんばかりの、パラドクスを大事にしています」
 近年は、フランス近代作品を核に、他の地域や時代の作品にも目を向ける。
「フランスから出発して、ヨーロッパを一周するような軌跡を辿りながら学んでいる最中です。今はまだ広く浅くても、もっと掘り下げていけるよう、源流たるエネルギーを求めて目下探索中。それは音楽にとどまらず、最終的には芸術や文化すべてに通底する、根源的なものだと考えています。私の歩みは、ベートーヴェンまで来ましたので、ブラームス、バッハへと進めていきたい」
 オリジナルのカデンツァを書く事から発展し、今では編曲や作曲も手掛けている。
「これは新たな試みというよりも、私には、演奏家が演奏だけではなく作曲も手がけていたバロック時代のように、“音楽家の本来の姿に立ち返ってみたい”という強い思いがあるからです」
 また、10月21日は新譜『暁のラプソード』がオクタヴィア・レコードよりリリースされる。作曲家でピアニストの加藤昌則と共演した美しい小品集だ。公演とあわせてこちらも楽しみたい。
取材・文:寺西 肇
(ぶらあぼ 2016年11月号から)

宮崎陽江ヴァイオリン協奏曲の夕べ
大友直人(指揮) 読売日本交響楽団(11/28) 札幌交響楽団(12/7)
11/28(月)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:コンサートイマジン03-3235-3777
12/7(水)19:00 札幌コンサートホールKitara
問:オフィス・ワン011-612-8696
http://www.yoe.jp

CD
『暁のラプソード』
オクタヴィア・レコード
OVCX-00080 
¥2778+税
10/21(金)発売