演奏機会の少ないサン=サーンスのチェロ作品を集めて
幅広い活躍を見せるチェロの名手、海野幹雄が2008年から毎年大切に継続しているリサイタル。今年も無事に開催されることになり、海野春絵のピアノとともに、サン=サーンス没後100年を記念するプログラムを披露する。
「今回はオール・サン=サーンスで組みました。実はチェロ作品が多い作曲家で、しかもいい曲ばかりなんです。彼の作品はどれも弾いていて心地よい。品が良くて詩的な感じもあります」
主軸となるのは2曲のソナタ。第1番は37歳、第2番は70歳の年の作品で、作曲者の長年の創作を概観できる。
「第1番にはすでに彼のスタイルがあり、完成度も高い。第2楽章は独特の愛らしい音楽です。第2番は熟練した大作で、明るく、疾走感と歌心があります。この2曲、作曲時期は離れていても共通するものがあり、作風は若々しいまま。どちらももっと弾かれるべき名作だと思います」
他の小品は4曲。「コンサートの開始にふさわしい」という「サッフォー風の歌」。シンプルな「ガヴォット(遺作)」。技巧的で楽しい「アレグロ・アパッショナート」。そしてチェロの名曲中の名曲「白鳥」と連なる。
「『白鳥』はアンコールの定番になっていますが、あえて本演目に入れました。テレビのない時代、白鳥の姿は、実物以外には、絵を描いてもらうか、音楽で想像するしかなかった。チェロがどう弾くときに羽を伸ばすのかなど、ぜひイメージしていただければ。何度弾いても飽きることはなく、毎回新鮮に臨める曲です」
8月には新譜『白鳥〜珠玉のチェロ小品集〜』がリリース。じっくりと歌い込む小品ばかりで構成され、楽器の木の響きまで伝わるような演奏と録音で味わえる。
「聴きやすくて美しい曲を選びました。この時期、肩の力を抜いて楽しめて、ちょっとだけ人の心にプラスになればいいなという思いが込められています」
昨年からはYouTube配信「チェリスト海野幹雄と仲間たち」を開始。リラックスしたトークと高水準の演奏を高音質で楽しめる。
「親密さが自然に出ているのでしょう。トークは解説よりも各自の人柄を出そうとしていますし、収録の間には常に笑いがあって、そのことで演奏も良い方向に変わるのかもしれません」
海野の活動はソリストをはじめ、ゲスト首席奏者、アンサンブル、動画配信、100回以上開催のサロンコンサート、そしてリサイタルと多岐にわたる。配信では新たにガット弦、バロック弓での演奏も披露している。快活な語り口で人との壁を作らず、新しい領域にも積極的に臨む海野。豊富な経験と温かい人柄が生み出す音色の深さを、実演と録音で味わえる嬉しい好機となる。
取材・文:林 昌英
(ぶらあぼ2021年9月号より)
海野幹雄チェロリサイタル2021〜サン=サーンス・没後100年〜
2021.9/12(日)14:00 Hakuju Hall【配信あり】
問:新演コンサート03-6384-2498
http://www.shin-en.jp
CD『白鳥〜珠玉のチェロ小品集〜海野幹雄』
ティートックレコーズ
TTOC-0055
¥3300(税込)
8/18(水)発売