東京都交響楽団(都響)とのマーラー・ツィクルスなどの演奏で人気を集めるエリアフ・インバル(4月から同団桂冠指揮者就任)が去る3月11日、東京大学の本郷キャンパスを訪問。都響が独自に取り組んでいる青少年教育プログラム「都響マエストロ・ビジット」の一環として、東京大学音楽部管弦楽団に特別講義を行った。「都響マエストロ・ビジット」は、青少年のための教育活動の一環として2004年に前常任指揮者ジェイムズ・デプリーストと都響が起ち上げたもの。
参加者は、第1ヴァイオリン7名、第2ヴァイオリン6名、ヴィオラ6名、チェロ4名、コントラバス3名で構成される弦楽オーケストラ。インバルが夫人とともに登場すると、学生たちがウェルカム演奏でモーツァルト「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」の第1楽章を披露。落ち着いたテンポで整然と構築された演奏で、インバルも「とてもチャーミングな演奏で感心しました。私は仕事を失ってしまいそうです(笑)」と高く評価していた。
演奏終了後は、インバルによる約2時間の講義。イスラエルに生まれた彼が、どのようにして音楽と出会い、指揮者を志すようになったのかという半生が詳細に語られた。当初は1時間で途中休憩の予定だったが、インバルはそれを自らとりやめて講義を続行する熱の入りよう。そこでは彼の十八番のひとつ、マーラーに関する示唆深い解釈(「ベートーヴェンは人生の不安や恐怖を作曲という行為によって克服しました。それに対し、マーラーは常に作品とともに悩み続けた人。だから、彼の作品は作曲当時の人々にとって大げさに聴こえて評価されなかったし、第2次世界大戦を経験したことで、聴き手は彼の不安や恐怖を初めて理解できるようになったと思うのです」など)も数多く聞くことができた。
講義の終盤では、学生からの質問にインバルが答えるディスカション・タイムも。近年どんどん高くなる傾向にあるチューニングの音程について、「あまり高くなり過ぎると歌手が困る」。コンサートマスターの役割について、ボストン響の名コンマスの言葉を引用しながら「指揮者の合図の2秒前に想定して動き出すのが理想」などと語る姿を、学生たちは熱心に聞き入っていた。
そして最後は、学生からの熱心な要請に応え、インバルと東大オケの共演が実現。
演目は冒頭と同じ「アイネ・クライネ〜」の第1楽章だったが、アンサンブルが驚くほど引き締まり、爽快さと喜びに満ちた秀演を聴かせてくれた。学生たちは、マエストロの棒の力に改めて感銘を受けながら、第15回都響マエストロ・ビジットは終了した。
(ぶらあぼ2014年5月号から Photo:M.Terashi/TokyoMDE)
東京都交響楽団 https://www.tmso.or.jp
◆東京大学音楽部管弦楽団
サマーコンサート2014
http://ut-orch.com/
東京公演
日時2013年7月21日 (月・祝)14:00開演(13:30開場)
会場 東京芸術劇場
千葉公演
日時2013年8月3日 (日)14:00開演(13:30開場)
会場 松戸市文化会館森のホール21 大ホール
大阪公演
日時2013年8月9日 (土)18:00開演(17:30開場)
会場 ザ・シンフォニーホール
香川公演
日時2013年8月11日 (月)18:30開演(18:00開場)
会場 サンポートホール高松 大ホール
鳥取公演
日時2013年8月12日 (火)18:30開演(18:00開場)
会場 とりぎん文化会館 梨花ホール
(以下共通)
指揮三石 精一 (同団終身正指揮者)
曲目
ベルリオーズ/「ローマの謝肉祭」序曲
ブラームス/ハイドンの主題による変奏曲
チャイコフスキー/交響曲第5番 ホ短調
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