【特集】東京オペラシティの同時代音楽企画
コンポージアム2021 featuring パスカル・デュサパン

フランス音楽界の“アウトサイダー”が示す音楽的視座

 東京オペラシティの根幹をなす同時代音楽企画「コンポージアム」。海外アーティストの企画が軒並み中止となり、昨年度は当初予定した5月から今年1月に延期のうえ何とか開催まで漕ぎ着けた。そして2021年度も、すでに内容を変更済みのうえ来月開催予定だ。

 今回武満徹作曲賞審査員としてフィーチャーされるのは、今年66歳となるパスカル・デュサパン。10代半ばの頃はフリージャズのセシル・テイラー、ロックのジミ・ヘンドリックスやピンク・フロイドに熱狂していた少年だったのが、18歳でエドガー・ヴァレーズの「アルカナ」(ストラヴィンスキーの三大バレエ音楽を急激に進化させたような作品だ!)に出会ったことで、現代音楽の作曲家になることを決意。

 しかしフランスの作曲家としては珍しく音楽院へ進学せずに、パリ大学(第1・第8)で美術などを学んだ。代わりにフランス音楽のアウトサイダーであり続けたクセナキスの作曲した電子音楽のなかにヴァレーズと共通するものを見出し、現在までクセナキスを「音楽上の父」と慕い続けている。

 20〜30代はこうした経歴の延長線上にある作風だったが、30代なかばの1992年に初演された2つ目のオペラ《メディアマテリアル》(王女メディアを題材とする作品)辺りから、声楽作品には柔和な響きも作品内に持ち込まれるようになり、40代ぐらいになるとその傾向は器楽や管弦楽作品にも表れていく。60代半ばを迎えた現在では、内省的で美しい旋法的なハーモニーと、ダイナミックで心躍るポストミニマルのような反復が相まみえることで、感情を深く揺り動かす音楽を手掛けるようになっている。

 今回、5月27日の公演で組まれたプログラムは、2010年代、2000年代、1990年代とデュサパンの60代前半から30代後半にかけての音楽を、遡って濃厚に味わえる貴重な機会となる。1曲目のチェロ協奏曲「アウトスケイプ」は、シカゴ交響楽団が初演した作品だ。初演のチェリスト、アリサ・ワイラースタインは、本作を「感情を大胆に開放するという意味で新ロマン派的でありながら、管弦楽法と音楽語法は完全に今日のもの!」と大絶賛。このたびの日本初演では、ジャン=ギアン・ケラス門下の横坂源が独奏を務める。

 2曲目の弦楽四重奏曲第6番「ヒンターランド」は、曲名からは分かりづらいが実質的には弦楽四重奏と管弦楽のための協奏曲。ドゥルーズとベケットに題材をとった……というと難解そうに聴こえるが、ミニマル的な反復が基調になるため案外と聴きやすい。世界・日本初演ではアルディッティ弦楽四重奏団がソリストだったが、今回は今年1月の「コンポージアム2020」においてアデスのヴァイオリン協奏曲で、代役とは思えぬほどの凄演を聴かせた成田達輝と、石上真由子(ヴァイオリン)、田原綾子(ヴィオラ)、山澤慧(チェロ)の4人が重役を担う。全員がソリスト級の実力者でかためられたクァルテットで、どんな演奏が披露されるか楽しみでならない。

 そして3曲目には、デュサパンを語る上では外せない「管弦楽のためのソロ」シリーズから第2番『エクステンソ』が選ばれているので、硬派な側面もしっかりと味わえる。東京都交響楽団とともに全3曲の指揮を務める杉山洋一は、デュサパンのもうひとりの師であるドナトーニに習った同門という間柄で、安心だ。

 もちろん他にも、コンポージアムといえば作曲家本人の生の声を聴ける「トークセッション」(本稿執筆時点ではデュサパンも来日の予定)や、単独で審査員を務める「武満徹作曲賞」にも注目したい。同作曲賞で日本人がファイナリストに残っているのは4年ぶり(17年にはホリガーの審査で坂田直樹が優勝している!)。デュサパンがどんな音楽に未来を見出すのかにも注目したい。
文:小室敬幸
(ぶらあぼ2021年5月号より)

*パスカル・デュサパンは、新型コロナウイルス感染症に係る入国制限措置の影響により来日できなくなりましたため、5月26日に予定しておりました「パスカル・デュサパン トークセッション」は中止となりました(5/10主催者発表)。
詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。

2021.5/26(水)19:00 パスカル・デュサパン トークセッション(無料)【中止】
5/27(木)19:00 パスカル・デュサパンの音楽
5/30(日)15:00 2021年度 武満徹作曲賞本選演奏会(審査員:パスカル・デュサパン)
東京オペラシティ コンサートホール 
4/23(金)発売
問:東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999 
https://www.operacity.jp