4月8日、東京文化会館で「東京・春・音楽祭2021」の記者会見が開催された。同音楽祭実行委員長の鈴木幸一、事務局長の芦田尚子が登壇した。そして、特別ゲストとして都内で隔離待機中のリッカルド・ムーティがリモートで参加、9日から始まる「イタリア・オペラ・アカデミー in 東京 vol.2」について抱負を語った。
まず、鈴木が3月19日から始まった17 回目となる音楽祭について「当初からの意図として、海外の演奏家と積極的に交流しながら世界的な音楽祭にしようと続けてきたが、人の移動が制限されたことで、逆に多くの公演ができなくなってしまった。厳しい時代ではあるけれど、新しい技術を駆使して世界と音楽を共有していけるきっかけになるのではないか」と述べた。
続いて芦田が今年の東京春祭の新たな試みについて説明。
「現状で全50公演を予定している。17公演が中止になってしまった。今年はリアルな公演と並行して、「LIVE Streaming 2021」を始めている。新しい試みとして4Kや高音質、マルチアングルでの配信など、今後どのような配信が残っていくのかということも、この期間に試す機会にしたい」
全5公演が行われた『子どものためのワーグナー《パルジファル》』では、本来、バイロイト音楽祭総監督のカタリーナ・ワーグナーはじめ演出チームが来日するはずだったがそれが叶わず、リモートでの演出となった。しかし、思っていたよりクオリティが高かったとバイロイト側も満足した公演ができたという。
入国制限で中止となった『ベルリン・フィルのメンバーによる室内楽』『東京春祭 歌曲シリーズ』計3公演は、4月中旬以降にドイツで収録し、後日ストリーミング配信(有料)されることが発表された。また、昨年中止となった東京2020大会の公式文化プログラム『ベルリン・フィルin Tokyo 2020』に代わり、4月17日にベルリンで行われる演奏会の一部を特別無料配信することも決まった。指揮はズービン・メータでブルックナー交響曲第9番というプログラム(日本での配信は4月18日 20:00〜)。
そして、来日することができたリッカルド・ムーティたっての希望で、東京春祭オーケストラとの特別演奏会が実現することになった。4月22日にミューザ川崎シンフォニーホール、23日に紀尾井ホールで、モーツァルトの交響曲を演奏する。
以下、リモート参加したムーティのコメント全文。
「この会見にご参加くださいました皆さまに心からご挨拶申し上げます。また鈴木さん(実行委員長)にも心よりご挨拶申し上げます。このように世界で大きな危機を迎えている非常に難しい時期に、東京春祭という素晴らしいフェスティバルを開催し、また私のように外国からも呼んでいただく勇気で困難を乗り越えてくださった鈴木さん、皆さまに心より感謝いたします。
私はウィーンのニューイヤー・コンサートの時、一つのメッセージを申し上げました。私たち音楽家というのはただの職業ではなく、一つのミッションであると思っています。音楽はただの文化というだけでなく、これからの若い人たちの将来のために、彼らを素晴らしく成長させるために大変重要なひとつの芸術であると考えています。私はこの意味において、日本という国は文化を大事にし、世界中の模範となるほど文化を重要視してくれる国だと思います。
私は1975年にウィーン・フィルとともに日本デビューをしました。それ以来日本ではオペラ、コンサートなどおよそ200回演奏をしています。私が演奏するのに世界の中で本当に大事な国、それが日本です。私は日本人の方々が音楽に貢献してくださっていること、これは本当に世界においても大切なことだと思います。ですから、このように人を育てるこの素晴らしい仕事、また勇気を持ってこの時にも(音楽祭を)開催するということ、これは本当に世界の人たちに賞賛されるべきだと思います。この素晴らしい機会をいただいて、私が若い指揮者、日本のオーケストラ、合唱団の人たちと共演することによって《マクベス》の真髄を説明できること、そのことによってヴェルディという作曲家がいかに今まで裏切られてきたか、ということを深く追求していきたいと思います。
私は今まで50年ほどこのようなヴェルディに対する裏切りの演奏方法と闘ってまいりました。幸運なことに今勉強している若い人たちには、だいぶ私のメッセージが伝わってきているという感触を受けています。ですから、私はこの隔離期間が早く終わって、皆さんと一緒に勉強できるようになることが待ち遠しくてたまりません。本当に強い意志を持って、ヴェルディという作曲家も、世界が認めているモーツァルトやワーグナーのように、皆さんが本当に彼(ヴェルディ)の作品を大事にしてくれる、その機会を作っていきたいと思っております。
今、世界の多くの国々でイタリアのオペラに関しては、強い大きな声で叫んだり、高音で伸ばしたりというのがイタリア風の歌い方、表現の仕方と思われていますが、これは本当に間違いだと思います。多くの方々はワーグナーとかモーツァルト、これは本当に音楽である、でもヴェルディ、ロッシーニ、ドニゼッティたちは“楽しみ”であるかのように考えている方が多いのだと思います。ですから私はこの機会に、モーツァルトの作品もこのオーケストラで演奏していくことを提案しました。私は日本のオーケストラも合唱団も本当に素晴らしいと思っています」
会見での登壇者の言葉からは、刻々と変化する状況のなかで、この大きな音楽祭を運営していくことの難しさがひしひしと伝わってきた。会期は4月23日まで、東京に春の訪れを告げてくれる音楽の祭典、その成功を見届けたい。
東京・春・音楽祭
https://www.tokyo-harusai.com