収録の全4曲は1990年代以来の録音となろう。しかし音楽は変わらず瑞々しく、若々しい。巨匠芸の重々しいイメージを軽やかに乗り超えた、「あるがまま」のたたずまいがそこにある。そしてよく耳を澄ませば、音域によって音色を変え、人声の濃やかな語り口のニュアンスが伝わってくる。要所ではかつて聴かせた華麗な節回しがきらめく。合奏との一体感も高い。木製フルートも演奏するなど、常に真摯なチャレンジを続けてきた工藤重典という名奏者の、積み重ねてきた年輪が音楽に深みをもたらしている。だがそれは前述の通り、あくまで自然体なのだ。吹き抜けてゆく心地よい風のように。
文:矢澤孝樹
(ぶらあぼ2024年12月号より)
【information】
CD『モーツァルト:フルート協奏曲 /工藤重典&東京チェンバー・ソロイスツ』
モーツァルト:フルート協奏曲第1番、同第2番、フルートと管弦楽のためのアンダンテ、ロンド ニ長調
工藤重典(フルート/指揮)
東京チェンバー・ソロイスツ
収録:2023年2月&2024年2月、紀尾井ホール(ライブ)
マイスター・ミュージック
MM-4535 ¥3520(税込)