荘村清志スペシャル・プロジェクト Vol.4 〜ギター協奏曲の夕べ〜

コンチェルトの傑作をたっぷりと味わうシリーズ・ファイナル

 改めて言うまでもなく、荘村清志は日本のクラシック・ギター界をリードしてきたアーティストであり、いわゆる古典的なギター曲を広く音楽ファンに知らしめただけでなく、武満徹(1930〜96)との出会いを通して、クラシック・ギター界に新しい風を吹き込んだ存在でもある。2019年には日本でのデビュー50周年を迎え、そのデビュー・コンサート時に演奏したJ.S.バッハ「シャコンヌ」を含むバッハ・アルバム『シャコンヌ』をリリースして、全国ツアーを行うなど、第一線での活躍を続けている。「荘村清志スペシャル・プロジェクト」は17年に始まり、ギターという楽器の様々な可能性を追究する内容とともに、アコーディオンのcoba、ヴァイオリンの古澤巌、テノールの錦織健との共演なども話題となった。そのVol.4が4月にサントリーホールで開催される。

荘村の代名詞「アランフェス」

 今回、荘村が演奏するのは、ギタリストにとって欠かせないレパートリーであるホアキン・ロドリーゴ(1901〜99)の「ある貴紳のための幻想曲」と「アランフェス協奏曲」、そして荘村がcobaに委嘱したギター協奏曲「TOKYO」である。大友直人指揮の東京フィルハーモニー交響楽団が共演。コンサートのオープニングにはモーツァルトのオペラ《皇帝ティートの慈悲》序曲が演奏される。

 荘村によるロドリーゴと言えば、2008年に録音されたファンホ・メナ指揮のビルバオ交響楽団(スペイン)と共演したコンチェルト・アルバムが忘れられない。これにはもちろん「アランフェス協奏曲」が含まれていたが、それは荘村にとって初の「アランフェス」の録音であった。荘村とメナはお互いに何か共通する感覚を見出し、それがロドリーゴ作品への新しい視点へと繋がった。陰影が深く、同時に作品の細かな部分にまでギタリストと指揮者の目が行き届いた演奏は、新鮮な感動を与えてくれた。

ジャンルレスのcobaへ委嘱したギター協奏曲にも注目

 それ以後も、荘村はイタリアの名門イ・ムジチ合奏団と共演して、新しい音楽的な刺激を受けるなど、常に前向きな姿勢を忘れない。それがおそらく、今回のcobaへの新作協奏曲の委嘱へと繋がったのだろう。cobaはご存知のように日本を代表するアコーディオン奏者としてポップス、ジャズ、そしてクラシックとジャンルを超えて活動を続けているアーティストだ。07年には「アコーディオン、カホン、オーケストラのための森の連鎖によるUrbs」を書き東京交響楽団と共演、ピアニスト・舘野泉から委嘱を受けて「記憶樹」を書くなど、作曲家としても注目を集める存在となっている。

 ロドリーゴの傑作ふたつとcobaの新作というとても興味深いラインナップとなる、プロジェクトの締めくくり。そこには、常に古典との対話を通して自分自身の音楽性、テクニックなどを見直し続ける荘村の姿勢、同時に、新しいアーティストとの共演を通じて、芸術的な刺激を受けることによって、前に進んでいきたいという意欲を感じる。日本のクラシック・ギター界だけでなく、クラシック音楽界全体を活性化させるようなコンサートになることを期待する。
文:片桐卓也
(ぶらあぼ2021年4月号より)

2021.4/15(木)19:00 サントリーホール
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