赤松林太郎(ピアノ) & 西本夏生(ピアノ) & 尾城杏奈(ピアノ)

聴き手とアーティストをつなぐ
〜8名のピアニストによるオンライン・リクエストコンサート

 今なお世界中は目に見えない敵との戦いの日々だ。しかし厳しい状況の中で、演奏家たちや彼らを支援する企業・団体は、素晴らしい音楽を少しでも多くの人々に届けようと試行錯誤を繰り返している。その先頭に立っているのが「ピティナ(一般社団法人全日本ピアノ指導者協会)」だ。オンライン配信だからこそできることを最大限に発揮し、様々な試みを成功させてきたピティナが次に取り組むのが「ピティナ・リクエストコンサート」。クラシックでは珍しい“演奏家へのリクエスト”(演奏者がいくつかの曲やプログラムを提示し、票を入れてもらう仕組み)を取り入れ、今注目のピアニストたち8名によるコンサートを配信する。今回は出演者の中から3名(赤松林太郎、西本夏生、尾城杏奈)に話を聞いた。
 
 

左より:赤松林太郎、西本夏生、尾城杏奈
写真提供:全日本ピアノ指導者協会(ピティナ)

 
 
リアルでもオンラインでも気負わず、今できる音楽を
 
 
赤松「もともとオンラインでの演奏配信を長く行ってきたということもありますが、生演奏でもオンラインでも、気負う必要は全くありません。常に音楽は語ってくれるものですし、我々が向き合うのはやはり楽譜であることに変わりはないのです。そのことを大切にしていれば、お客様もどんな形であっても受けとめてくださるはずです」

 ピティナの「公開録音コンサート」でこれまで膨大な動画を配信してきた赤松。今回はベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番と第4番でリクエストを募ったところ、第4番に決定。出演者の一人である秋山紗穂と2台ピアノで演奏を聴かせてくれる。(なお、秋山は第5番「皇帝」を演奏予定で、その際赤松はオーケストラパートを担当する)。

赤松「ベートーヴェンの協奏曲は、第3番までは独奏者が表に出る、というものでしたが、第4番からはオーケストラとともに室内楽演奏をするようなイメージです。ロマン派の音楽へのターニングポイントになった曲でもありますよね。2台ピアノでやるからこその表現もたくさん作れると思います。特に今回演奏する作品は“対話”が楽しめる楽曲ですから、素晴らしいピアニストである秋山さんとの共演を心から楽しみにしています。そしてその感動をたくさんの方にお伝えできたらと思っています。それがまたきっと次の可能性を切り開いていくことになるはずです」
 
 
人間味のあるスペイン音楽の世界観を伝えたい
 
 
 西本は得意とするスペインの作曲家、アルベニスとグラナドスのメドレーでリクエストを募り、今回はグラナドスのメドレーを演奏する。

西本「作曲家の魅力をわかりやすくお伝えできるように、アルベニスは“セクシー”、グラナドスは“ロマンチック”とキーワードをつけてプログラムを組んでリクエストを募りました。スペインというと、まずは“情熱的”とか舞踏のリズムのイメージを持たれる方が多いですが、決してそれだけではない様々な魅力を今回のコンサートで発見していただけると思います」

 西本もYouTubeに自身の演奏動画をアップロードするなど積極的にオンラインを活用しているイメージがあるが、オンラインでの演奏についてはどのように感じているのだろうか。

西本「赤松さんもおっしゃっている通り、やはり音楽を届けるということでは全く変わりません。ただ、これまで会場にお越しくださるお客様から力をもらって演奏していたり、コンサートではMCでお客様とよくお話をしていたので、そういうコミュニケーションがとれない、という点では寂しかったです。ただ、3月頃にとあるオンラインのライブに参加した際、演奏にチャットという形でリアルタイムでコメントをいただけて。基本的に会場での生演奏ですとお客様は無言ですが、実はこんなに熱い感想を持って聴いてくださっているんだな、ということが改めてわかりました。とても素敵な体験でしたし、オンラインコンサートの可能性の広がりを感じました」
 
 
心穏やかになれるようなプログラム
 
 
 最後に話を聞いた尾城は2020年度のピティナ・ピアノコンペティションのグランプリ獲得者である。コロナ禍での挑戦ということで色々と大変なこともあったと思うが…。

尾城「コンペティションにはずっと挑戦したいと思っていましたので、開催していただけたことを心から感謝していました。レッスンがリモートになったりということはありましたが、自分自身、楽曲にじっくりと向き合う時間がたくさんとれたので、モチベーションを高く保って演奏できました」

 ピティナ・ピアノコンペティションは2次予選から演奏の配信があり、コンクール後も生演奏・オンラインともに様々な形で演奏を行ってきた。今後、さらなる活躍が期待される彼女は“愛”をテーマにした選曲を聴かせてくれる。

尾城「このような状況ですから、お聴き下さる方が心穏やかになれるようなプログラムにしたいなと思いリクエストを募りました。シューマン=リストの『献呈』はこれまでも弾いてきた曲ですが、それ以外は今回のために準備しました。ずっと弾きたかった作品や今回をきっかけに出会った作品もあります。どれも本当に美しい作品なので、お聴きいただいた皆様に何かを感じていただけたら嬉しいです」

左より:赤松林太郎、秋山紗穂、尾城杏奈、片山柊、亀井聖矢、江夏真理奈、佐久間あすか、西本夏生
写真提供:全日本ピアノ指導者協会(ピティナ)

 当日は各演奏者が素晴らしい演奏を届けてくれるだけでなく、クラシック音楽ファシリテーターの飯田有抄が演奏者と聴衆を“つないで”くれる。演奏者の音楽や作品への想い、そして彼らの魅力を存分に伝えてくれるはずだ。また、今回のリクエストにあたっては多くの票が寄せられたほか、「今後はこういう曲も取り上げてほしい」という希望の声も多かったという。今後の展開にも期待が膨らむ。演奏者と聴衆の距離が少し遠くなりかけている今、感動体験を通して、新たに力強くつながるきっかけとなるコンサートになることだろう。
取材・文:長井進之介
 
  
  
  
 
【Information】
ピティナ・リクエストコンサート
〜8名のピアニストによるジョイント・コンサート〜

2021.2/10(水)17:00〜

■赤松林太郎
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番第1楽章(オーケストラパート:秋山紗穂)

■秋山紗穂
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」第2楽章・第3楽章(オーケストラパート:赤松林太郎)

■尾城杏奈
シューマン=リスト:献呈
リスト:愛の夢
エルガー:愛の挨拶
スーク:愛の歌

■片山柊
ドビュッシー 「前奏曲集」と巡る世界の国々:前奏曲集第1集より
「デルフィの舞姫」「野を渡る風」「アナカプリの丘」「とだえたセレナード」「沈める寺」「ミンストレルス」

■亀井聖矢
リスト:超絶技巧練習曲より第4番「マゼッパ」・第5番「鬼火」

■江夏真理奈
ラフマニノフ:前奏曲「鐘」
ショパン:ノクターン 遺作嬰ハ短調
ドビュッシー:前奏曲「亜麻色の髪の乙女」
ショパン:24の前奏曲より「雨だれ」

■佐久間あすか
ブルグミュラー:25の練習曲より(アレンジバージョン)
25番 貴婦人の乗馬・14番 スティリエンヌ・20番 タランテラ・15番 バラード・19番 アヴェ・マリア

■西本夏生
「スペインをほのかに感じて、身も心もとろけてしまいたい人のための切ないロマンチック・ア・ラ・グラナドス」
オリジナルメドレー(〜「詩的なワルツ集」、「ロマンチックな情景集」、「詩的な情景集」を紡いで〜)

全日本ピアノ指導者協会(ピティナ)
https://research.piano.or.jp/topic/2021/01/request_1.html

視聴券:¥2,000
https://eplus.jp/sf/detail/3369960001-P0030001(e+)
https://v2.kan-geki.com/live-streaming/ticket/233(観劇三昧)
https://www.360ch.tv/video/show/2992(360ch)