「風」を意味するヴェントゥスを団体名に掲げた3人はいずれもベルリンで学んだ若者たち。演奏は躍動感や熱量にあふれるものだが、その自然なアンサンブルや呼吸がどこか風のような新鮮さを帯びているのは偶然でないかもしれない。つま先立ちのバレリーナのように正確でリズミカルなスタッカート、精妙な転調の中を泳ぐように歌われるメロディーが、シューベルトのミューズに息吹を与える。ショスタコーヴィチのトリオは異世界から降りてくるように始まり、エネルギッシュなスケルツォを経て、ひたひたとした慟哭から道化師風の諧謔へと鮮やかにつなぐ。作品のドラマがスマートに描出された。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2021年2月号より)
【information】
CD『シューベルト&ショスタコーヴィチ/トリオ・ヴェントゥス』
シューベルト:ピアノ三重奏曲第2番/ショスタコーヴィチ:ピアノ三重奏曲第2番
トリオ・ヴェントゥス
【北端祥人(ピアノ) 廣瀬心香(ヴァイオリン) 鈴木皓矢(チェロ)】
日本アコースティックレコーズ
NARD-5074 ¥2800+税