山下一史(指揮)

コンサートというのはその土地の人々との絆で成り立っていることを知りました

写真提供:毎日新聞社
 指揮者・山下一史が、東日本大震災で保護者を亡くした震災遺児の学業支援のためのチャリティーコンサート「がんばろう日本!スーパーオーケストラ」を振る。震災直後の2011年5月から毎年続いてきたコンサートの最終回。趣旨に賛同するトップ奏者たちが集結した豪華メンバーによる特別編成オーケストラだ。

 当時仙台フィルハーモニー管弦楽団の正指揮者だった山下。2011年3月11日午後2時46分は、仙台でのコンサートの当日リハーサルが始まる直前だった。

「激しい揺れが収まったあと、安全のために全員で雪が降り始めた外に出て2時間ぐらいそのまま。テレビもラジオもなかったので、津波が来ていることも知りませんでした」

 その年の12月、仙台フィルとともに、津波で沿岸部がほぼ壊滅した大船渡市を訪れた。

「高校生たちや地元の合唱団と一緒に復興ソングを演奏したのですが、その歌声の素晴らしさ。オーケストラはみんな泣いていました。力を与えるつもりが、こっちが勇気づけられた。そうなったときに、特別な絆ができるわけですよね。それまで、コンサートというのは、いい演奏をすることで成り立つもので、それを仕上げるのが指揮者の仕事だと思っていましたが、それだけじゃない。その土地の人々や聴衆との絆で成り立っているんですね。今回のコンサートも、奏者たちがただの仕事ではなく、絆として、同じ目的意識を持って集まっている。これが大事なことだと思います」

 精鋭たちによる一期一会のオーケストラを振るのはエキサイティングだという。

「だってどんな音が出るか、演奏家たち自身もわからない。さあどうなるだろうと、音楽的な好奇心を持って弾くわけです。カラヤン先生が自家用ジェット機のライセンスを取るときに、教官から『装置に対して、やるべきことを正しくやれば飛行機は飛ぶ。邪魔しないこと』と言われたそうなのですが、それと同じ。正しく接すれば、彼らが素晴らしい演奏を作ってくれる。オーケストラをドライブするな、キャリーしていくんだ。アシスタントをしていたカラヤン先生に習った一番大事な言葉です」

 演奏する「展覧会の絵」は、金管のソロや木管のアンサンブルなど腕の見せどころがたくさんあって、「こういう猛者の集まりがやるのに一番ふさわしい」という。また、辻彩奈(ヴァイオリン)が弾くブルッフ「スコットランド幻想曲」と、實川風(ピアノ)のラヴェル「左手のためのピアノ協奏曲」では、若い2人との音楽の対話を楽しみたいと期待を語る。

 公演は本来、昨年3月に開催される予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響のため1年延期された。
「自粛期間を経て活動を再開したとき、音楽家はみんな、自分たちが音楽に生かされていることを感じたはず。震災のときもそうだった。音楽することに新鮮な喜びを感じて演奏できると思います」

 コロナ禍のなかで迎える震災10年。いまだ道なかばの復興と向き合うことも忘れてはならない。私たち音楽ファンにとって、このコンサートはそのことをあらためて見つめる機会にもなるはずだ。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ2021年2月号より)

がんばろう日本! スーパーオーケストラ
毎日希望奨学金チャリティーコンサート
2021.3/2(火)19:00 サントリーホール
問:毎日新聞社事業本部03-3212-0804
  テンポプリモ03-3524-1221
https://www.mainichi.co.jp/event/culture/gambaro/