《声楽・合唱における飛沫感染リスク検証実験》報告書発表

合唱団は前後2m左右1m間隔で60人以内、マスクは不織布が最も飛沫を防止
〜クラシック音楽公演運営推進協議会が測定実験の報告書を発表〜

文:池田卓夫 

 
 日本クラシック音楽事業協会や日本オーケストラ連盟、日本演奏連盟などで構成するクラシック音楽公演運営推進協議会は2020年12月11日、「コロナ下の音楽文化を前に進めるプロジェクト《声楽・合唱における飛沫感染リスク検証実験》」の報告書を発表した。
 先に発表した楽器演奏や聴衆の歓声におけるリスク分析の続編に当たる。実験は9月25〜27日、長野県茅野市の新日本空調研究所内の高性能クリーンルームにプロの声楽家を集め、歌唱時に発生、 周囲に飛散する飛沫などの微粒子を検出する目的で実施した。

 報告書は82ページにも及ぶ膨大な内容。実験の計画立案やデータ収集、結果分析にボランティアで参加した医師、科学者、音楽関係者たちが議論に議論を重ね、全員合意の下の発表に至るまで、3ヵ月近くを費やした。
 日本の年末の“風物詩”、ベートーヴェンの「交響曲第9番《合唱付》」やヘンデルの「オラトリオ《メサイア》」の演奏シーズン寸前、ギリギリのタイミングでの発表となった。

 細かな数値の分析は、オリジナルの報告書に目を通していただくのが最善と思われるので、以下に付録の「Q&A集」から、実際の演奏に即した12項目の助言を紹介する(報告書全文は下記ウェブサイトよりご覧ください)。

テノール歌手の歌唱中、パーティクルカウンターを10箇所に設置し、微粒子数などを測定
撮影:塚田訓久


1)合唱団の取るべき立ち位置の間隔

→マスクなしの場合、歌手間の距離は「概ね前後2m、左右1m」

2)ソリストの立ち位置から客席までの距離
→歌唱位置から客席最前列までの距離は「水平距離で最低でも3m以上」。

3)マスクを着用した場合の歌手間の距離
→「概ね前後1m、左右50cm」だが、マスクの形状や材料によって性能が大きく変わる。

4)マウスシールドはリハーサルおよび本番の感染防止に役立つか
→マウスシールドは今回の可視化実験で微粒子の拡散が確認され、感染対策としての使用は勧められない。

5)一番良いマスクはどれか
→不織布マスク、ポリウレタン(PU)マスク、歌唱用マスクのうち、最も良い成績だったのは不織布。ただし、マスクの使用により思うように発声できない、表情を見せられないなどの制約も考えられる。

6)舞台上のサーキュレーター(空気循環器)の設置
→風向を考慮しながら適切に設置することで、換気の補助として有効な可能性がある。

7)加湿器の設置
→有効かどうかは不明。各ホール担当者とよく相談して。

8)「概ね60人以下」の根拠
→今回は年末の《第九》公演を念頭に置いたため、演奏に必要な最低人数の50ー60人と前後2m、左右1mの間隔を東京都内の主要演奏会場の舞台サイズを比較して算出した。

9)マスクをすれば60人以上に増やせるか
→60人はあくまで目安。一般的には合唱の人数が増えれば増えるほど、感染リスクは上昇する。

10)影コーラス(舞台の袖や裏で歌う)の配置も舞台上と同じ考え方か
→歌唱者間の距離は同じ。換気条件は舞台と異なるので、ホール担当者とよく相談して。

11)声楽ソリストと合唱団、オーケストラ団員との距離設定
→一般的には水平面で2mの距離が確保されていれば、飛沫などによる感染リスクは低くなる。

12)PCR検査を行なって陰性証明を得た人だけが参加すれば、安全に演奏・歌唱できるか
→PCR検査を行なって陰性の人だけが活動に参加するという方針 をとっている組織・団体がある。この場合、理論的には2〜4日毎 くらいの頻度で検査を繰り返す必要があり、多額の費用を要する。 また、PCR検査が陰性であっても実際には感染していることがある。PCR陰性の人だけが活動に参加するという方針で、感染を抑えることができるかどうかは不明。 PCR検査には限界があり、必要性の判断や結果の解釈に専門性も求められため、安易に「安心のため」だけに行うものではない。


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声楽・合唱における飛沫感染リスク検証実験 報告書全文(PDF、82ページ)はこちらよりダウンロードできます。

https://storage.googleapis.com/classicorjp-public.appspot.com/200925_27chorusreport.pdf

日本クラシック音楽事業協会
https://www.classic.or.jp/2020/12/blog-post_11.html