ジョナサン・ノット(指揮) 東京交響楽団

新たに姿を現すブルックナーと矢代秋雄の名作2編


 ブルックナーの交響曲は巨大なので、アンサンブル力だけではなく、集中力、持続力、体力が揃わないと心底満足いく演奏にはならない。これはどんなオケにとっても高いハードルだが、日本のオケの場合には体躯の大きい欧米人に比べパワーで見劣りするとか、無理を押してサウンドが固くなるとか、そういう難しさがあると思う。ところがノットが東響をリードすると、ぴんと張り詰めた緊張感が保持される中、楽団の能力が極限まで引き出され、硬質の音のシャワーがぎりぎりのバランスで作られる。これは日本のオケの長短の特性をうまく調整した、一つの理想的解決法ではないか。

 さて、11月の定期では第6番が披露されるが、意外にもノット自身もこの曲を取り上げるのは初めてになるという。過渡的な作品と見られがちだが、誠実な不器用さといった風情が残る第5番までとも、俗世を超えていくような第7番以降とも異なる伸びやかさと渋さを湛え、人生の深まりを感じさせる。この独特な風格をどう表現するか。

 矢代秋雄のピアノ協奏曲も興味深い。初演者の中村紘子から後代へと弾き継がれることで、今や古典的傑作との評価が定着している。ソロの小菅優は東響と2017年に共演し、抜群のテクニックと安定感をみせた。レパートリーとして掌握した作品の再演がいよいよ実現する。

 日本には残念なことにその評価が国内にとどまっている作曲家や作品が多い。今回、インターナショナルに活躍するアーティストたちが、新たな次元から作品に光を当ててくれるだろう。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2020年11月号より)

*音楽監督ジョナサン・ノットは、新型コロナウイルスの感染症に係る入国制限により来日ができなくなりました。本公演は代わって広上淳一が出演いたします。また出演者の変更に伴い、曲目を一部変更して開催いたします。(11/2主催者発表)

(変更後)
ベートーヴェン:序曲 ハ長調「命名祝日」op.115
矢代秋雄:ピアノ協奏曲
ベートーヴェン:交響曲第4番 変ロ長調 op.60

詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。

名曲全集 第161回〈後期〉
2020.11/14(土)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
第686回 定期演奏会
2020.11/15(日)14:00 サントリーホール
問:TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511 
https://tokyosymphony.jp