三宅麻美(ピアノ)

ロマン派音楽の系譜をたどる新たな旅路へ

 東京藝術大学を卒業後、ベルリン国立芸術大学およびイモラ国際ピアノアカデミーで研鑽を積んだピアニストの三宅麻美。国内外でソリスト、室内楽奏者として目覚ましい活躍を見せる彼女は、ショスタコーヴィチの『24の前奏曲とフーガ』全集CDを日本人で初めて発売し、注目を集めた。その後もベートーヴェンのピアノ・ソナタ及びヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会を行うなど、規模の大きなシリーズを展開し、その実力を高く評価されている。そんな彼女が今年新たにスタートするのが「浪漫の花束 三宅麻美 ピアノ・リサイタル・シリーズ」だ。

「学生時代から惹かれていた、ドイツ・ロマン派のキャラクター・ピース(性格的小品)と歌曲を集めたシリーズです。これを始めるにあたり、第1回はベートーヴェンにしたかったのです。彼のピアノ・ソナタや室内楽作品に10年間向き合い、昨年も晩年の傑作『ディアベリ変奏曲』を演奏して一つの集大成を迎えることができました。そこで、多くのロマン派の作曲家たちが憧れたベートーヴェンという作曲家から、このシリーズを始めようと決めたのです」

 最初に決まったのは連作歌曲集「遥かなる恋人に寄せて」だという。
「ずっと演奏したかった作品です。これを中心にベートーヴェンの様々な面をお楽しみいただけるプログラムにしました。ピアノ曲の『6つのバガテル』や『幻想曲』はあまり演奏されませんが、特に『バガテル』はベートーヴェン最後のピアノ曲で、『第九』や『ミサ・ソレムニス』などを書いた後の作品。彼の飽くなき挑戦の姿勢が見えます。『幻想曲』は一見理解しがたい曲ですが、読み解けば読み解くほど、ベートーヴェンの創作の宇宙に触れていくことができる魅力的な作品なのです。『月光』ソナタはソナタ形式の概念を壊した彼の挑戦が凝縮しています」

 歌曲を共演するのはバリトンの三塚至。オペラや歌曲、宗教曲のソリストなど幅広いレパートリーで活動を展開している。
「学生時代、一緒に学んだ仲間です。藝大で学ばれる前は中央大学の文学部を卒業されているので、言葉に対する感覚が素晴らしくて・・・。以前、ハインリヒ・アウグスト・マルシュナーのオペラ《ヴァンパイア》日本初演でタイトルロールを演じられていた際のドイツ語に感激し、ぜひご一緒したいと思っていました。今回も多彩な表現を届けてくれるはずです」

 名手による、ベートーヴェンから連なるロマン派音楽の系譜をピアノ曲と歌曲で堪能するリサイタル・シリーズ。新たな発見とともにロマン派の“神髄”を味わえることだろう。
取材・文:長井進之介
(ぶらあぼ2020年10月号より)

浪漫の花束〜色とりどりの性格的小品とドイツ・リートの世界〜
三宅麻美 ピアノ・リサイタル・シリーズ 第1回 ベートーヴェン「生誕250年」
2020.11/2(月)19:00 王子ホール
問:プロアルテムジケ03-3943-6677 
https://www.proarte.jp