下野竜也(指揮) 愛知室内オーケストラ 「新旧ウィーン楽派」

楽都で生まれた古典と前衛、その光と陰


 2002年、愛知県立芸術大学出身の若手演奏家によって結成された愛知室内オーケストラ(ACO)。15年に新田ユリが常任指揮者に就任以来、意欲的な活動で存在感を示している。10月は初登場の下野竜也の指揮で「新旧ウィーン楽派」の作品を取り上げる。近年のACOの躍進が発揮される魅力的な選曲だ。

 20世紀初頭の爛熟のウィーンで活躍したベルクの「室内協奏曲」は、師シェーンベルクの50歳の誕生日に向けて作曲を開始したが、間に合わず翌1925年に完成した。3つの楽章を連続しても、ひとつの楽章だけの演奏も可能で、今回取り上げる第3楽章は、ピアノ(宇根美沙惠)とヴァイオリン(亀谷希恵)の激烈なカデンツァで始まり、室内オケと息をもつかせぬ刺激的な対話が続く。

 ウェーベルン「5つの断章」は、弦楽器の凝縮された音の身振り、シェーンベルク「室内交響曲第2番」は、穏当な響きの中でのモティーフの緻密な組み立てなど、三者三様の個性が浮かびあがる。

 これらの間に挟まれるのは、ウィーンのエステルハージ侯爵家の楽長をともに務めたハイドンとフンメルのトランペット協奏曲。2曲とも開発されたばかりの有鍵トランペットのために書かれた。独奏は、地元名古屋市出身、昨年まで25年間、新日本フィルに在籍した服部孝也。名手の華やかな技巧と輝かしい音色で、存分に堪能させてくれるだろう。

 ベルクは「室内協奏曲」第3楽章のスケッチに「世界、人生、万華鏡」と記した。まさにウィーンの光と陰が反射する作品が並ぶプログラム。その挑戦に大いに注目したい。
文:柴辻純子
(ぶらあぼ2020年10月号より)

2020.10/16(金)18:45 三井住友海上しらかわホール
問:愛知室内オーケストラ052-684-5355 
https://www.ac-orchestra.com