人生最強の時に奇跡を起こせ!
〜2020年夏、子どもたちと対話を重ねて作り上げる音楽〜
多くのイベントが中止・延期になった2020年、子どもたちへの影響も大きく、文化・スポーツ等で多くの大会やコンクール、発表会などが開催できなくなった。そんな中、9月5日(土)と6日(日)にあらゆる対策を講じて開催の運びとなったのが「佐渡裕とスーパーキッズ・オーケストラ 2020」である。
兵庫県立芸術文化センターの事業として、2003年より活動を開始したスーパーキッズ・オーケストラ(以下SKO)。全国の小学生から高校生までの弦楽器奏者をオーディションで選抜し、同センター芸術監督を務める佐渡裕が指導。例年なら8月末の成果発表公演のほか、県内各地の演奏やテレビ番組出演など、多岐にわたる活動を行っているが、今年は活動どころか集まることもままならなかった。
佐渡自身は、3月7日のウィーンでの演奏会の後は、単発的な仕事の他にはほとんどの予定がなくなってしまったというが、自身のこと以上に、「卒業式や入学式、甲子園や吹奏楽コンクールなどがなくなり、多くの子どもたちが目標を失っていることに胸を痛めています」と語る。
そんな時期、佐渡がSKOのために4月から始めたのが、「文通プロジェクト」である。メンバー一人ひとりとメールをやりとりし、対話を通じて成長を感じたという。
「全員と向き合う時間ができて、SKOのこと、音楽のことから人生相談まで、本当に様々な話をしました。多いときにはちょっとした原稿のような量になることもありますが(笑)、その甲斐はあったと思います」
そういった対話や、メンバーがリモートで練習を重ねることで、つながりは維持できたものの、例年なら5月から集まり始めるところ、今年は最初に集まって練習できたのが7月中旬、佐渡が指導に入ったのは8月中旬だった。
「日々状況が変わる中、演奏会の実現性がなかなか見えずに不安もありました。でも、感染予防の先生の立会いの下、細心の注意を払いながら練習できるようになりました。僕自身もみんなの顔を見られたことが、何より嬉しかったですね。いまは猛烈に練習して、本番に向けて盛り上がっています」
もちろん、かつてない事態で初めてのことばかりだが、新しい様式に慣れていくことと、その範囲から新しい境地を見出すことに意欲をもっている。
「例えば、お互いマスクで表情がわかりにくくても、そういう時代になったと認めるしかない。感染しない・させないというのはミッションであり、同時に人と人との絆が失われないということも大事にしたい。
僕らはこれまで、いい音を出すために、声を出したり体を動かしたり、あいさつも大声で言うようにしていました。今回は、それらができない分、弓を動かす腕だけではなく、全身を使って表現しようと。SKOらしく、全力で音を鳴らす、弓を動かす、音程を取る。全力の声で感謝の言葉を述べることはできませんが、その思いを表すのが音しかないので、音自体はすごいエネルギーになります。ある意味では、原点に戻ってきたと言えるのかもしれません」
年々参加者のレベルも上がり、ソロは団内オーディションで選ぶが、今年は誰も落としたくないくらい優秀だったため、本プログラム以外にも、プレコンサートで舞台に上がるという。ちょうど8月末に開催された東京音楽コンクールで優勝した前田妃奈は、現在高校3年生のSKOメンバーで、今回も出演する。「こういう状況下でSKOががんばり、メンバーがコンクールなどで結果を出してくれて、本当にうれしいですね」と目を細める。
「SKOの目的はコンクール通過やプロを輩出することではなく、一生の思い出になるような夏休みを作ってあげたい、ということでしたが、いまや僕自身が彼らのファンになって、このSKOこそが世界を驚かせる日本のオーケストラだと本気で思っています。全国各地から違う学年のこどもたちが集まり、いろんな工夫をして、たくさん話し合って、いいものができたら受け継いで──歴史ができていくんですね」
佐渡が「人生で最も大きな夢をかけた」というCD『TEENAGERS』も4月にリリースされた。
「ティーンエイジャーっていうのは人生最強の時で、奇跡を起こせる年代だとメンバーにも言っています。今年はコロナ禍にいるからこそ、SKOでやりきった、完全燃焼した、というのを示したい。人が体の細胞全てを使ってひとつのものを作り上げようとする姿勢こそが、感動を呼ぶのだと僕は思います」
今年は、「SKOのエンブレムのような曲」であるホルストのセント・ポール組曲第1楽章から、坂本龍一「戦場のメリークリスマス」の新アレンジ、そしてチャイコフスキーの「弦楽セレナード」全曲など果敢な選曲。大曲のチャイコフスキーも、「相当練り上げてできていて、今年の聴きどころです」と強調する。
9月の2回の演奏会は、佐渡ばかりか、参加する子どもたち一人ひとりにとって、かつてないほどの意味合いを持つ。5日はネットで有料ライブ配信も行われ(10月4日まで視聴可能)、どこからでも熱い舞台を視聴することができる。真の意味で「一生忘れられない夏休み」の舞台での完全燃焼、しかと見届けたい。
取材・文:林 昌英
【Information】
佐渡裕とスーパーキッズ・オーケストラ 2020
2020.9/5(土)17:00、9/6(日)14:00 兵庫県立芸術文化センター
問:芸術文化センターチケットオフィス0798-68-0255
http://www1.gcenter-hyogo.jp
【配信】
9/5公演のみ配信あり
販売期間:8/26(水)10:00〜10/4(日)18:00
ライブ視聴:9/5(土)17:00
アーカイブ視聴:〜10/4(日)23:59
チケット(視聴券)購入:イープラス(Streaming+)
https://eplus.jp/sf/detail/0096050003-P0030028?P6=001&P1=0402&P59=1
【CD】
『TEENAGERS 佐渡裕&スーパーキッズ・オーケストラの奇跡』
佐渡裕&スーパーキッズ・オーケストラ
エイベックス・クラシックス
AVCL-84107
¥3000+税