海野幹雄(チェロ)

ブリテン・チクルスのファイナルを飾る意欲的なステージ

C)内山政彦

 ベンジャミン・ブリテンの書いた3曲の「無伴奏チェロ組曲」を中核にして、2018年から毎年1曲ずつ取り入れたプログラムでリサイタルを開催してきたチェリストの海野幹雄。その3年連続企画の最後を飾るリサイタルがこの9月にHakuju Hallで開催される。

困難な状況の中で歴史的な傑作と向き合う

「コロナ禍で、本当にリサイタルを開催して良いものかどうか、かなり迷いましたが、やはり音楽家が勇気を持って演奏活動を続けて行くことは、音楽ファンのためだけでなく、これからの音楽業界のためにも必要だと思い、今年もリサイタルを開催することにしました」

 客席数をかなり限定しての開催となりそうだが、それでもリサイタルに向けて意欲的である。

「今年はブリテン・シリーズの最終回ということで、無伴奏チェロ組曲の第3番を取り上げます。もともと、この3曲の無伴奏チェロ組曲は、ロシアのチェリスト、ロストロポーヴィチのためにブリテンが書いた作品ですが、その中でも第3番はとくに個人的な意味合いの強い作品だと感じています。組曲の最後にロシア民謡を主題とした曲が組み込まれている点にそれがよく表れていると思います。また優れたチェロ奏者であったロストロポーヴィチを意識しており、いわゆる超絶技巧的な作品ではありませんが、かなり高度な技術と表現力を必要とする作品となっています」

バッハ演奏での新たな試み

 プログラムには、バッハの代表的作品のひとつ「無伴奏チェロ組曲第2番 ニ短調」が含まれているが、これを選んだのには面白いエピソードがある。

「実は昨年、イタリアのチェリスト、ジョヴァンニ・ソッリマが来日した時に対談する機会があったのですが、その時にソッリマからガット弦とバロック・ボウ(弓)を使ってバッハを演奏するように強く薦められました。対談中にいきなり、ソッリマが『Amazonで検索して、今すぐに買った方がいい!』と言い出す場面もあったほど(笑)。そこまで言うなら、と早速、ガット弦を張れる楽器とバロック・ボウを探して、練習を始めたのです。ちょうど、新型コロナの影響で、50ぐらいあった公演の予定がすべて無くなり、ガット弦とバロック・ボウの練習にあてることができたのは、不幸中の幸いでした」

 というわけで、このリサイタルでもバッハの「第2番」はガット弦とバロック・ボウを使って演奏される。
「やはり、これまでのスチール弦とは違う響き、表現、ニュアンスが可能になり、僕自身の音楽の表現の幅も広がったように思いますし、久しぶりに会った他の演奏家の方からも、同じようなことを言われたりもしました。その新しい挑戦にも注目していただきたいです」

 その他、ブルッフの「コル・ニドライ」、ポッパーの「ハンガリー狂詩曲」というチェロのために書かれた代表的な作品、リストの「愛の夢」(カサド編曲)といった華やかな作品も並ぶ。ピアノの共演は海野春絵。
「音楽を気軽に楽しみたいというご要望にも応えられると思いますので、ぜひチェロの音を楽しみにいらしてください」

 この他、専門家の助けも借りて、この期間中にYouTubeでの動画配信を開始した海野。こちらは「10年後にも残せるクオリティの音楽を目指す」と、順次、新しい動画を公開していく予定となっている。ぜひチェックしてほしい。
取材・文:片桐卓也
(ぶらあぼ2020年9月号より)

海野幹雄 チェロリサイタル2020 ブリテン:無伴奏チェロ組曲全曲演奏会(全3回) 最終回
希望〜コロナ禍における音楽の在り方を求めて〜
2020.9/13(日)14:00 Hakuju Hall
問:新演03-6222-9513 
http://www.shin-en.jp