教育活動や出版社勤務など、様々な社会人経験を積みながら鍛錬を重ね、地道に演奏活動を続けてきた大嶺。歌に対するひたむきな愛情と積み重ねてきた多様な経験は着実に歌へと昇華されており、傘寿を過ぎてなお豊かに響く歌声、そして歌詞の一つひとつに“重み”や“深み”を感じる歌唱を届けてくれる。日本歌曲を代表する作品が集められたこのディスクを聴いていると、日本人が日本語の歌曲を歌うには覚悟が必要だと思い知らされる。言葉の響きの美しさはもちろん、それをどのように自分が理解し、相手に届けたいかということを明確にすることの重要性を改めて教えられた。
文:長井進之介
(ぶらあぼ2020年9月号より)
【information】
CD『日本歌曲 詩人と作曲家の対話―大嶺光洋 八十歳の表現―/大嶺光洋&宮崎芳弥』
山田耕筰:からたちの花、曼珠沙華、みぞれに寄する愛の歌/信時潔:をみな子よ/橋本国彦:薊の花/越谷達之助:初恋/石桁真礼生:ふるさとの/大中恩:ふるさとの/中田喜直:海四章/木下牧子:物語/平井康三郎:秘唱 他
大嶺光洋(バリトン)
宮崎芳弥(ピアノ)
コジマ録音
ALCD-9211 ¥2700+税