新たな挑戦の思いをこめて
5年先のことはわからない、と人は言う。だが、よく生きていれば、微笑みかけるものはある。
清水和音が、5年間の春と秋をピアノ音楽の珠玉の名曲で彩る。スカルラッティ、バッハから、おそらくプロコフィエフ、シマノフスキまで。全10回のシリーズは題して《清水和音 ピアノ主義》。一つひとつのプログラムに新たな挑戦の思いをこめて、ピアニストは50代の半ばを力強く歩むことになる。
「聴いたことのない曲があったとしても、食べてみたら、けっこうご馳走になると思います。メニューの作りかたにかかってくるけど、ほんとうにいい作品、弾きたい曲ばかりを集めたから。初めて弾く曲がたくさんあるし、10年や20年ぶりのものも多いので、たいへん」と清水和音は快活に笑う。その言葉のとおり、初回のプログラムは、スカルラッティ、バッハのパルティータ第2番ハ短調で始まる。
「久しぶりのバッハだし、パルティータは20年くらい前に3番を弾いたことがあるだけです。スカルラッティをプログラムに入れたことはこれまで一回もありません。短調の曲が抜群にいいから、6曲を選んだけれど、どれも立派な曲で、バッハと比べても聴きごたえがある。後半のラフマニノフの『音の絵』作品39も8曲目までは短調。これも演奏会で弾くのは13年ぶりなんですよ」
秋のプログラムは、ショパンとラヴェル、リストとスクリャービンをそれぞれ出会わせるユニークなものだ。
「ショパンとラヴェルはすみずみまで行き届いているところが共通する。スクリャービンはショパンと並べて語られることが多いけれど、音の美しさではリストに近い。和声やピアニズムに関してもそう。スクリャービンのソナタ第2番と第4番は初めて弾く曲ですがピアノ音楽のもっとも美しい曲のひとつですね。複数の作曲家の曲を交互に弾くことは、いまではあまりやられないけれど、違いと共通点を両方楽しんでもらえたらと思います。4人ともピアノの美しさを極めた作曲家ですしね。やはり友達とつき合うのといっしょで、作品の良さは相手の言うことをちゃんと聞かないと出てこない」
2年目の春は、ベートーヴェンの最後の2つのソナタに、ムソルグスキー「展覧会の絵」で、楽器の制約を打ち破る勇猛果敢な精神の冒険が展開される。秋には、シューベルト「4つの即興曲」作品90、ブラームス「4つのピアノ小品」作品119という晩年作に、シューマンの大曲「交響的練習曲」を組み合せて、ドイツ・ロマン派音楽の精髄を。こうして最初の2年でドイツ、ロシア、フランスなどの名作が集い、その先の広大な広がりを予感させる。
「自分の意志で選んだものに加えて、提案を受けて決めた曲もある。不安な気持ちを抱きながらずっとやってきたけれど、でも困難な仕事をやってこなかったら、なんにもないとも言える。だから、思い出や記憶に残っているのはぜんぶ難しい演奏会のほうです。50を過ぎて、『音の絵』で始めなきゃいけないなんて、なかなかいい人生だと思う。自分でも期待してますけどね。サッカーのペレが言ってましたよ、自分が偉大なプレイヤーになれたのは神の思し召し、だけど長くできたのは自分の力だ、と。それが正しいと思う。続けて成長させて、衰えをなるべく遅くするのはそうとうな意志の力が必要だから。それ以外の部分は、音楽家にかぎらず人間はふつうに進歩する。いい生きかたをしていればですね」
取材・文:青澤隆明
(ぶらあぼ2013年12月号から)
《清水和音 ピアノ主義》
第1回 2014年4月19日(土)14:00
曲/スカルラッティ:ソナタ(6曲)
バッハ:パルティータ第2番
ラフマニノフ:エチュード「音の絵」op.39
第2回 2014年10月18日(土)14:00
曲/ショパン:即興曲第2番・第3番
マズルカ(3曲)、幻想曲
ラヴェル:水の戯れ
亡き王女のためのパヴァーヌ
スクリャービン:ソナタ第2番「幻想ソナタ」・第4番
リスト:ペトラルカのソネット第47番・第104番・第123番
第3回 2015年4月25日(土)14:00
曲/ベートーヴェン:ソナタ第31番・第32番
ムソルグスキー:「展覧会の絵」 (予定)
第4回 2015年10月24日(土)14:00
曲/シューベルト:4つの即興曲op.90
ブラームス:4つのピアノ小品op.119
シューマン:交響的練習曲 (予定)
会場:浜離宮朝日ホール
2回セット券(第1回&第2回公演):12月7日(土)〜
2014年1月15日(水)発売
1回券 第1回:2014年2月1日(土)発売
同 第2回:2014年6月7日(土)発売
問:ローソンチケット0570-000-407
http://l-tike.com/kazune