西本夏生(ピアノ)

身体感覚を刺激するヒメノの「リズム・エチュード」を世界初録音

 西本夏生は東京藝術大学大学院を経てカタルーニャ高等音楽院、カステジョン高等音楽院を修了。特にスペイン音楽の演奏と普及に注力している彼女が初のソロ・アルバムとして選んだ作品は、スペインの作曲家、パスカル・ヒメノの「演奏会用リズム・エチュード 第1集・第2集」。世界初録音の注目盤だ。

「ヒメノさんとは私の師を通じて知り合い、すぐに意気投合しました。ある日、彼が書きたての楽譜を持って現れて、“ナツキ、ちょっとこれ弾いてみてよ”と言うので弾いてみたところ、一瞬で虜になってしまいました。完全帰国してからもこの曲集を演奏する機会に恵まれ、様々な方のご協力を得て、ついには楽譜の出版が決定しました。そこで、ぜひCDとして音も残したい、ということになったのです」

 コンポーザー・ピアニストであるヒメノの同作品は、様々な舞曲のリズムやメロディをもとに超絶技巧が繰り広げられる。西本の華やかな音色、思わずこちらも身体を動かしたくなるリズム感の良さによって、非常に色鮮やかなイメージが浮かび、何度も聴きたくなってしまう。

「ヒメノの楽曲の大きな特徴は、弾いていて身体的な気持ち良さがあることです! それは彼が自分もダンサーであり、その身体感覚から得たリズムや音楽を曲に落とし込んだからこそ生まれたのではないかと思います。どうしても隠しきれない遊び心が随所に顔を出すのも特徴ですね。たとえば第2集の終曲〈クール〉では、ピアノの最高音の黒鍵と最低音の黒鍵から始まる高速のパッセージがあり、思わず笑ってしまいます。ピアノをお弾きになる方には楽譜をご覧いただきたいですね。聴いても弾いても、身体でここまでリアルに音楽を感じられる曲は珍しいと思います。ぜひ多くの方にこの喜びを味わっていただきたいです」

 いずれヒメノの 「クラリネット・ソナタ」と「スペイン風フーガ」を必ず弾きたいという。今後もヒメノ作品の演奏に取り組むというが、2010年には佐久間あすかとピアノデュオ「piaNA」を結成するなど、ソロに室内楽と、幅広く活動を展開している。

「ある演奏会で佐久間さんの演奏を聴いて、“この人と絶対一緒に弾かなくては!”と運命を感じ、私から声をかけました。作曲家のカプースチンさんにも演奏を聴いていただいたところ、なんとピアノデュオのための作品を2曲献呈してくださったのです。今後はこの2曲を広く知っていただくために、様々な形での演奏や録音を積極的に行うつもりです。同じ時代を生きる作曲家の作品を演奏することはとてもエキサイティングで、それを知ってしまうともう抜け出せません(笑)」
取材・文:長井進之介
(ぶらあぼ2020年6月号より)

CD『パスカル・ヒメノ 演奏会用リズム・エチュード第1集・第2集』
コジマ録音
ALCD-7252 ¥2500+税