アーティストメッセージ(15)〜野平一郎(ピアノ、作曲)

C)YOKO SHIMAZAKI

 数ヵ月前には考えも及ばなかった事態となりました。すべてのコンサートが中止となり、ホールも使えなくなり、コミュニケーションを分断されてしまったことで、我々音楽家は今までに経験したことのない文化そのものの危機に直面しています。我々の生きていく糧が奪われてしまったこうした状況が一体いつまで続くのか、正直先が見えない中で、何とか自分の気持ちを奮い立たせて作曲の仕事やピアノの練習を進めています。今まで時間がなくてできなかった本を読んだり、録音を聴いたり、いろいろなことを考える素晴らしい時間をもらったとポジティブに考えざるを得ず、ここで負けるわけにはいきません。

 こうした中、静岡県のグランシップで行われるNHK交響楽団のコンサートが8月末に予定されています。3年前より作曲している「静岡トリロジー」が3作目の完結編を迎え、これを指揮して初演します。30分以上かかる大作で、時間と空間の迷宮を探求する、崩壊と生成の絶えざる運動が起こり、音楽家としてのわたし自身の集大成であるとともに、将来を見据えた作品です。またビゼー、ドビュッシー、ラヴェルといったフランス作品も同演奏会で指揮します。皆さんにぜひ素晴らしい音楽をお届けしたいです。こうした状況になってからの自分の内的な変化が、作品の中に決して否定的に表れないよう、明日に希望をつなぐ響きが作れたらと念じながら仕事をしています。


NHK交響楽団 × 野平一郎プロジェクト シリーズⅢ
2020.8/22(土)17:00 グランシップ(中) 
5/31(日)発売

https://www.granship.or.jp/event/detail/2546