新井鷗子(横浜みなとみらいホール館長)

「すべてのことをバランスよく取り込んでいきたい」
──他ホールとの連携や新たなコンサートのあり方などを視野に入れて

C)平舘 平

 4月1日付で、横浜みなとみらいホールの新館長に就任した。“本職”は音楽構成作家。その分野の第一人者として、テレビの音楽番組やコンサートの制作現場で仕事をしてきた。一方で、障害者支援の研究開発に携わる東京藝術大学の特任教授も務める。独自の経歴で音楽に関わってきた人だ。

「作曲家や演奏家の方とちがい、私はいわば『ガワ』を作ってきた人間。自分のコンテンツは持っていません。でも、そういう意味ではフラットに企画をすることができる。自分らしさが出せるとしたらそこかなと思っています」

 公共ホールの使命として、すべてのことをバランスよく取り込んでいきたいと展望を語る。
「よく、ホールの個性や特色をどのように出していくのか? と聞かれるのですが、特色を出すならテーマを絞ればいい。むしろ簡単なのです。そうではなく、広く、すべてを包み込むようなことをやっていくのが公共ホールとしての使命。それをアピールしていきたいと思います」

 ホールは2021年1月から約1年10ヵ月におよぶ大規模修繕工事に入るため、新井の企画が実際にホールで上演されるのは少し先の話になる。しかし休館中にも、「移動型横浜みなとみらいホール」なる新しい試みを準備している。トレーラーハウスに最新のVR技術を搭載して病院などの施設を巡り、ふだん来場できない人々にホールを体感してもらおうというプラン。
「今回のコロナウイルスによる影響のように、ホールに行けない状況は、今後もすべての人に起こるかもしれません。そんなときにどんな新しい音楽の聴き方があるのかという提案もできるかなと思います」

 横浜みなとみらい21地区では、規模や性格の異なる複数の音楽会場の建設が予定されている。まもなくオープン予定の1万2千人収容の「ぴあアリーナMM」。2023年完成予定の2万席規模の「Kアリーナ」。そして計画が動き始めた横浜市のオペラ劇場も落成を目指す。
「それら全部が連携することを検討しています。たとえばレディ・ガガがKアリーナでライヴをやって、そのアンプラグド・バージョンをみなとみらいでやるとか。多様なホールが連携することで、それぞれの特色や役割が理解されていくのだと思っています。さらには、公共ホールなら地域の病院や学校、介護施設などとの連携もしやすい。ホールが単体で孤立してしまわないような形で発展していきたいですね」

 今後の働き方改革の浸透を見込んで、朝のコンサートなども需要があるはずだという。構成作家として「どう見せるか」で手腕を発揮してきた人。さまざまなアイディアが、どのようにたわわな果実をみのらせるのか。新館長とともに生まれ変わる横浜みなとみらいホールに注目が集まっている。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ2020年5月号より)

問:横浜みなとみらいホール045-682-2000
https://mmh.yafjp.org/mmh/